「真の勇者」ウルトラマンコスモス館

「真の勇者創作ストーリー館」

☆ご注意☆この文章に登場する氏名は、実在するウルトラマンコスモス作品中の
登場人物とは、当然、まったく、全然、関係がございません。ご了承ください。


ウルトラマンコスモス短編小説

「思い出の遊園地」 文/古舘樹里

  電車を乗り継ぎ、駅から住宅街を抜けて山へ向かう若い男女がいた。
時折会話をしながら微笑みあうその様は、他人から見れば恋人同士に見えるのだろう。
少し木陰になっている遊園地のゲート前で、アヤノは呟いた。
「やっと着いたね・・・」
「懐かしいなあ・・・、あんまり変わってないや」
遊園地全体を見渡すかのように、ムサシは目を細めて言った。
先日も、二人が知っている遊園地が閉園になった。
そして・・・。
「巨大テーマパークができちゃたからね、古くからある遊園地は経営を保つのが難しいんだろう」
ムサシはそう言いながら、己の財布からお金を出し、入場券を二人分購入する。
長引く不況の中、相次ぐ怪獣出現とカオスヘッダーによる被害に対する多大な出費は、
容赦無くこの星(地球)に生きる者(人間)に重くのしかかってきていた。
「なんだか寂しいよね?どんどん思い出の場所が無くなっていっちゃうようで・・・」
「うん・・・。中に入ろうか?アヤノちゃん」
アヤノは無言で頷き、二人は小高い山の上に30年以上も前に造られた遊園地に足を踏み入れた。
正面ゲートを入ってすぐに、数える程しかない遊具が目に入る。
「あった!あれだよ、アヤノちゃん。昔、父さんと一緒に乗った飛行機は」
ムサシが指差した方向には、回転しながら徐々に上へと上がる、どこの遊園地にでもありそうな乗り物だった。
「一緒に乗ろうか?アヤノちゃん」
勢い良くムサシに向かって振り返りながら、アヤノは首を思いっきり横に振る。
「嫌よっ!あれって子供が乗るものじゃ無いの・・・?」ムサシは吹き出した。
「なんか誰かさんの、お前達二人ともお子ちゃまじゃねーか!って言う声が聞こえてきそうなんだけど」
その言葉を聞いたアヤノもまた吹き出した。
「今頃その人、始末書書いているかな?」
「書いているよ、きっとリーダーに見張られながらね?」
「さぼっちゃ駄目よ、フブキ隊員」
「・・・だから、ちゃんと書いてますって、リーダー」
トレジャーベース、ヒウラとドイガキが休憩中の今、
チームEYESの作戦室にはシノブとフブキの二人だけだった。
 先日の出動、カオスヘッダーに取り付かれた怪獣が暴れだした際、
思いもよらぬ攻撃でフブキ隊員が操縦する新型のテックスピナー1号は地上へと落とされた。
チームEYESが所有するハイテクメカとはいえ、
一機空へ飛 ばすだけでも税金はかかってくるものである。
例え優秀なパイロットでも、意図して破損したわけでは無くとも、トレジャーベースに帰還後は、
それ相応の上に対する処置が待っているのだ。
「お前達は休日、あちこちの遊園地巡りしているのかって、帰ったら言われちゃうかな?」
フブキの物真似をしてみせながら、アヤノは言う。
あははは・・・・とムサシは笑い飛ばしながら、遊具の前を二人は通り過ぎて行った。
「この上を行くとね、桜の時期は花見の人でいっぱいになるくらい、見事な桜の木がすごく沢山あるんだよ」
古びた階段の手すりに触れながら、アヤノは口を開いた。
「桜も花を咲かせても、これからは誰にも見てもらえなくなるのかなあ・・・。
閉園後はここ、どうなっちゃんだろう?」
アヤノの寂しそうな顔を見つめながら、ムサシは彼女の不安を取り除くようにこう切り出した。
「経営が別のところになって、ここは公園として生まれ変わるそうだよ、安心した?」
「ほんと?公園なら、尚更沢山の人に花を見てもらえるよね?良かったー!」
アヤノは笑顔で空を見上げた。
霧が立ち込めそうだった彼女の胸は、ムサシの飾らない優しさで、
今日の青空のようなすがすがしい気持ちになったのである。
ひと休みしようと、販売機が設置されている休憩所のベンチに二人は腰を下ろす。
横に座った筈のアヤノが急に席を立った。
「・・・?」 いぶかしげにムサシは彼女を見上げる。
「飲み物買ってくる!コーラでいい?」
「えっ・・・?アヤノちゃん、僕が買ってくるよ」
続いて立ち上がったムサシに軽く手を振りながら、すでにアヤノの体は販売機の前に近づいていた。
「いいの、いいの。ムサシ隊員は座ってて」
そう言われては、ムサシはこれ以上何も言えず、再びそのベンチに腰を下ろした。
商品の取り出し口に、ゴトンと鈍い音を立てて缶が落ちてくる。
二本買った内の一本をムサシに差し出して、アヤノは彼の横に座り、缶のプルを引いた。
プシュッ!とほとんど同時に軽快な音を立て、
その飲み物は歩き疲れた二人の喉を潤す。
ドォーーーーン!
口につけ、飲んでいる最中のコーラがその轟音と衝撃で、ムサシの口からこぼれ落ちた。
缶を手に持ったまま、アヤノは大きく土煙が立ち上がる前方を、引きつった表情で見つめる。
「怪獣なのか・・・?」
慌ててポケットの中を探さなかったのか、それとも不精してハンカチを持たずにきたのか、
ムサシは手でコーラで濡れた口元を拭き取った。
身動き出来ず前方を見続けるアヤノの胸に広がる不快な感情は、
何か良くないものの出現を予期しているようだった。
そして姿を現す巨大な物体。
「まさか・・・あれは呑龍なのか?」
ムサシは記憶の糸を辿るように、その巨体を見つめた。
「呑龍って・・・?」
聞いた事のある名前だった、しかしアヤノはすぐに思い出せな い。
「コスモスが初めて地球に来た時、バルタン星人がその体を乗 っ取った古代獣さ。
でも何故今頃?あの後SRCが地中深く亡骸 を埋めたのに・・・、どうしてここに出現するんだ?」
大地を割り、巨体を振りかざし暴れる呑龍。
「ねえ・・ムサシ隊員、何か苦しんでいるように見えない?」
アヤノの言葉にムサシは、呑龍の動きを見据えた。
再びアヤノが口を開く。
「まさか、またそのバルタン星人に操られているんじゃ?」
信じたくは無いが、その可能性はあるとムサシは思った。
状況を判断しようとしたその時、オフとはいえ二人が常に身に つけているEYESペーサーが鳴り響いた。



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「2003.09.29更新」

「はい、こちらムサシ!」 「ムサシ、現場に居るんだな?アヤノも一緒だな?」
「はい、キャップ」
「シノブとドイガキがテックスピナー2号で、フブキが1号で そちらに向かった。
二人は、人々をそこから避難させてくれ」 「了解。アヤノちゃん、一緒に皆を避難させよう!」
頷いて共に走り出したアヤノ。
そして、ゆっくりと呑龍はその歩を進めて行く。
動く度に周囲の建築物や木などが、壊され踏みつけられていった。
頭上に響く轟音。
テックスピナーがほどなく現場に到着したのだ。
「シノブ、レーザーラックで動きを止めるんだ」 「了解」
標準を合わせ発射するが、呑龍はそれに捕まっても、尚もがくように動く。
安定度が増したテックスピナーといえど、強烈な振動に機体が 揺れる。
突如、カオスヘッダー探知機能を備えたテックスピナー2号機 のコクピットに、警報音が鳴り響いた。
「何?その音はカオスヘッダー反応なの?」
「そうです、リーダー。カオスヘッダー反応は・・・目の前の 呑龍から感知しています!」
ドイガキが、モニターを見つめながら状況を知らせた。
「・・・カオスヘッダー?シノブ、無理をするな!レーザーラ ックを切り離すんだ!」
作戦室で様子を見守っていたヒウラは、操縦桿を握っているシ ノブに対し、後退を促す。
「了解!レーザーラック、解除し・・・!」
切り離そうとしたその時であった、呑龍の背中の中心が大きく 口を開けた。
まだレーザーラックは切り離されていないのにもかかわらず、
その背中の中心からテックスピナーに光線が放たれた。
「キャーーーッ!」
「う・・・うわあ・・、テ・・テックスピナー機体損傷!」
後部座席にいたドイガキが、機体の状況を訴える。
ドイガキが言ったように機体は損傷していたが、噴煙を上げながらも激しいGに耐えつつ、
シノブは緊急着陸の態勢に入る。「リーダ!」
ムサシは着陸地点に向かって走り出した。
「ちょっと、ムサシ隊員?」 アヤノの静止も間に合わない。
階段を一気に駆け下り、最初に立ち寄ったプレイゾ−ンへと走 るムサシの頭上を、
テックスピナー1号が噴煙を上げたまま通り 過ぎていく。
リーダー・・・、ドイガキさん・・・。 心の中で二人の名を呟く。
だがそんなムサシの足は、その場で歩みを止めた。
すぐ近くで見える呑龍が体制を崩し、倒れ込んだからだ。
「・・・!!!」 言葉を失い呑龍を見つめるムサシ。
背中にぽっかり口を開けた呑龍の体が、小刻みに震え始めた。 そして渦をなして現れる光のウイルス。
光のウイルスはやがて、何かの姿を形成していく。「・・・バ・・バルタン星人?」
以前の人間の姿に近いカオスヘッダーに似てはいるが、
その姿はどちらかというと、ムサシが昔その目で見たバルタン星人に良 く似ていた。
  「何故・・・?呑龍が何をしたというんだ?前はバルタンに、今度はカオスヘッダーお前に操られ。
呑龍は静かに眠りについていたのに、何故蘇らせた?何故そっとしてやれないんだ?」
体を乗っ取られ、わずかに残ったエネルギーを使い果たした呑龍の瞳が、静かに閉じられた。
やるせない、怒りにも似た感情がムサシを取り巻く。 そしてカオスヘッダーは暴れ始めた。
壊されていくビルや家々、一刻も早くその行動を止めなければ 、ここら一帯のポイント全てが壊滅していく。
「コスモス、ここは僕と死んだ父さんとの思い出の場所なんだ。
いや・・・僕だけじゃない、きっと沢山の人がここに思い出を持っている。
それに、この遊園地は生まれ変わる日を待っているんだ、それをカオスヘッダーは壊していく。
僕は・・・、僕はそれが許せない!」
キッと前を見据え、ムサシは手に持ったコスモプラックに力を込める。


「2003.10.06更新」

「コスモース!」
ムサシがコスモプラックを、頭上高く掲げた。
彼の体を強烈な光が包み込み、それが上空へと伸びる。
光の中から徐々に姿を表す巨人。
ムサシはウルトラマンコスモスと一体化した。
穏やかな表情のルナモードのコスモスは、姿を現したと同時に右手を上空に上げ、
左手は胸の前に置きモードチェンジの体制に入った。
相手は再び現れた実体カオスヘッダーである。
優しさ溢れるルナモードでは対抗できない。
静かに両手を下ろしたコスモスの体を包む光が消えた瞬間、そこには灼熱の赤き戦士の姿があった。
「ハアーッ!」
すぐさまファンティングポーズを取るコスモスを見つめるカオスヘッダーは、不適な笑みを浮かべた。
何が可笑しいんだ・・・?
不気味なその笑みにムサシは、何か得たいの知れないものを感じた。
カオスヘッダーは襲撃の度、相手の能力と知識を得ていく。
狙いはコスモスの強大な力。
コスモスと一体であるムサシの心につけこむことに対し、何も感じるはずは無かった。
睨み合うようにお互い見つめたまま、そこから動こうとしない。
先に攻撃をしかけるべきか・・・コスモスは迷った。
いつものカオスヘッダーならば、間髪入れず攻撃してくるだろう、しかし今日は少し違っていた。
コスモスの足が大地を蹴り、カオスヘッダーへ向かって走り出す、先制を仕掛けたのはコスモスの方だった。
それでもカオスヘッダーはそこから動かない。
相手に向かいながらコスモスは、コロナパンチを打ち込む。
だが彼の拳はカオスヘッダーに掴まれ、
逆に空いた左手でカオス ヘッダーは、コスモスの腹部に強烈なパンチを打ち込んだ。
パンチの威力にわずかに体制を崩したその瞬間を、カオスヘッダーは見逃さなかった。
コスモスの体を背負い投げると、地面に叩きつける。
まだお互いの腕は掴んだままであった。
その手に力を込め、カオスヘッダーは起き上がれないコスモスに再度パンチを打ち込む。
しかし、その衝撃に・・・パンチにやられたままのコスモスでは無かった。
腕が駄目でも足がある。
コスモスは慢心の力を込め、体の真上にいるカオスヘッダーの腹を蹴り上げた。
後ろへと倒れこむカオスヘッダー。
その隙に立ち上がったコスモスは、コロナプロテクトで更に後方へとカオスヘッダーを吹き飛ばした。
すぐに立ち上げれずいるカオスヘッダーに向かって、走り出したコスモスの両足が大地を蹴り、上空へと高く舞い上がる。
相手が空を見上げたと同時に、コスモスはソーラーブレイブキックを打ち込んだ。
だがカオスヘッダーは彼の突き出した右足を、両手でしっかりと掴んだのである。
掴んだ勢いのまま、カオスヘッダーはコスモスを投げ飛ばす。
カオスヘッダーより前方で、コスモスはバランスを崩して倒れこんだまま動けなかった。
カオスヘッダーは、コスモスに向かって歩を進める。
両手を胸の前で合わせ、手と手の間にエネルギーを集めるカオスヘッダーの攻撃から、逃れる為の
タイミングを計るコスモスだったが、
一瞬の動きの遅れから、放たれた衝撃波に動きを封じられる。
その衝撃波はまるで網のようにコスモスの体に纏いつき、更に片手から気を集中させた光線を打ち込んだ。
膝をついて衝撃に耐えるコスモスの精神に、直接カオスヘッダーは語り掛ける。
いや、コスモスというよりムサシに対してだった。




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「2003.10.09更新」


「ぐわああーーーー!」
まるで頭の中をまさぐるような不快感と、
痛みすら感じる波動にムサシは声を上げて叫ばずにはいられなかった。
そう・・・声を出す事によって、痛みは和らぐ事もある。
彼がそっとしまい込んで大切にしているものを、探り出そうとするカオスヘッダー。
その行為に対して、負けまいとするムサシの心が、激しく葛藤する。
そして彼の持つ思い出のひとつに、カオスヘッダーは目を付けた。
  宇宙を目指していたムサシの実父は、夢が叶う寸前でその想いを事故により、断ち切られてしまっていた。
再婚した母の夫、現在の父親もムサシは尊敬している。
子供の時から宇宙への夢を否定せず、厳しくもいつも彼を励まし、夢に向かって進む事を教えてくれた。
それでも実の父親に対する思いは、また格別なものがあるのだ。
しまい込んでいた彼の思い出に、カオスヘッダーは触れる。
そしてその思い出を鷲づかみにして破壊した。
「お父さんっ!」 事故で亡くなった筈だが、
彼の頭の中でそれがカオスヘッダーに襲われた事によるものへの映像に切り替わる。
哀しみに耐え切れ無い心が、悲鳴を上げる。
それを象徴するかのように、コスモスのカラータイマーが点滅を 始めた。
「エクリプスになる事ができれば・・・」
上空で彼らの闘いを見ていたシノブは、思わずそう呟いた。
「リーダー!!!・・・コスモスがっ!」
フブキの悲痛な声に、シノブもドイガキも、
トレジャーベースの作戦室で闘いを見守っていたヒウラも表情が固まった。
点滅を続けていたカラ−タイマーが、ついにその動きを止めたの である。
恐ろしいくらいその場が静まりかえる。
「嘘だろ・・・?」
あまりにも壮絶な光景を目の当たりにしたフブキは、そう呟く事 しかできなかった。
「やだ・・・コスモス・・、死んじゃわないで・・・」
闘いの現場近くに居るアヤノの瞳に、涙が滲む。
  コスモスと一体になっていたムサシの心が、次第に彼から離れていく。
コスモスはそんなムサシを己に繋ぎとめようと、心に呼びかけるが、
コスモスと一体となり、ましてや闘う事は幾ら健康な体を持つムサシといえども、
体力は消耗し精神にも負担を掛ける。
 その為コスモスの思いもむなしく、ムサシの意識は薄れていった。
   僕は死んだのか?

「2003.10.20更新」

完全にコスモスから意識が離れ、ムサシの心はある空間へと迷い込んだ。
何も無い、音すら聞こえない場所。 ひしひしと孤独が己を包み込んでいく。
「コスモス!コスモス!」
耐えられない圧迫感に、ムサシは声の限り叫んだ。
「駄目だ・・・、貴方に僕の声が伝わらない」 やるせなさに唇を噛む。
コスモスの己に対する暖かな光を、いつも感じていた。
変身し彼とひとつになると、尚更その光は強く感じるのである。
だが、今の自分にはその光すら身に纏わず、反対に冷たさすら感じるようになってきた。
  もう・・・駄目かもしれない・・・
そんな考えが頭をよぎった瞬間だった。 「ムサシ・・・ムサシ・・・」
誰かが己の名を呼ぶ声が、彼の耳に届く。 「だれ・・・・?」
声の主が一体何者なのか、ムサシは見極めようと耳を澄ます。
「ムサシ・・・夢を捨てるな・・・」 次第にその声が大きさを増していく。
「・・・ゆ・・め・・?」 「夢を捨てては、お前に未来は無い」
前方にゆらゆらと空間に動めくものが出現する。
それにムサシの瞳は釘付けになった。
動ごめいていた物体がやがて・・・、ひとつの形を作り出す。
それは・・・忘れもしない忘れた事の無かった、亡くなった懐かしい父親の姿となる。
「お父さんっ!」
ムサシがそう叫んだ時、彼の瞳に写っていた父親の顔がコスモスの顔へと変化した。
「コスモス・・・?」
先ほどの父親の言葉にかぶるように、コスモスはムサシへ語りかける。
「ムサシ・・・夢を捨ててはいけない」 「違う!僕は夢を捨ててはいない」
ムサシの体を中心にして、周りの空間がゆっくりと明るさを増していく。
「コスモス!今も・・・そしてこれからも、僕は絶対に「夢」を捨てたりしないっ!」
己に言い聞かせるように、コスモスにそう言い切ったムサシの体が突如、眩い光に包まれた。


「2003.11.03更新」

その光は上空に飛び、地上で横たわっているコスモスの胸にある、カラータイマーへと溶け込むように入っていった。
カラータイマーとコスモスの目に光が宿る。
  「見て!コスモスに光が戻ったわ!」
シノブが歓喜の声を上げる。
コスモスが、カオスヘッダーに敗北したと思っていた人々の顔が、喜びの色に染まっていく。
 横たえていたその巨体をゆっくりと起こしながら、コスモスは目の前に勝利したと喜んでいたカオスヘッダーに対し、
しっかりと視線を合わせていた。
前を見据え立ち上がったコスモスは、静かに右手を頭上で回す。
光が彼の体を包み、そしてうねるような光が消えた瞬間、
コスモ スの姿が勇気の証であるエクリプスモードへと、変化を遂げていた。
気を集中するように拳を突き出し、エクリプスの持つ勇気を燃えたたせる。
蘇がえり、モ−ドチェンジまで行ったコスモス対し、
カオスヘッ ターは我を忘れる程の憎悪を彼へと向ける。
しかし光の巨人は、そのカオスヘッダーの邪悪な闇に対抗するべく、
胸の前でクロスさせた腕から、最強にまで高めたコズミューム光線を放った。
逃げる間もなく、その光線に狙いを定められたカオスヘッダーは
、断末魔だけを残し粉々になって姿を消した。
人々の歓喜の声がコスモスの耳に届く。
ゆっくりと静かに腕を降ろしたコスモスは、そっと空を見上げた。
その姿は、思い出に別れを告げるかのようにも見える。
視線を一度落とし、足元にある遊園地を見つめ、
再び彼の瞳はその巨体と共に遥か宇宙を目指すように、大地を蹴り飛び立った。
「ありがとう・・・、ウルトラマンコスモス」
空へ飛び立ったコスモスの姿が見え無くなるまで、アヤノは空を 見上げていた。
「・・・そうだ!ムサシ隊員は?」
フッと我に返ったアヤノは、ムサシの行方が気になった。
辺りを見回すが姿は見えない。
「ムサシ隊員ー、どこに居るのお・・・?」
口元に手を添え、声の限り彼女は叫んでみる。
「アヤノちゃーん!」
彼女が向いていた方向と逆方向から、ムサシは手を上げ走って来た。
 その姿を見たアヤノは、プッと頬を膨らませてムサシを睨みつける。
「もう!一人で勝手な行動しないで、ムサシ隊員!」 「ごめん、ごめん!アヤノ先輩っ」
笑いながら、両手を合わせてムサシは謝っていた。
そんなムサシを見て、アヤノも笑う。
ふとムサシの視線は、階段の下に見える破壊されたプレイゾーンへと向けられた。
そっとアヤノはムサシの横に立つ。
「随分・・・壊れちゃたね。ムサシ隊員・・・大丈夫?」
上目遣いでアヤノはムサシの顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」というアヤノの言葉には、思い出の地を壊された自分への配慮と
いたわりの気持ちが込められているのを、感じ取れないムサシでは無かった。
ゆっくりと視線をアヤノへと向ける・・・そして。
 ありがとう、アヤノちゃん」優しい笑顔で、彼は心から礼を言った。
「例えここを破壊されても、思い出は無くならない。
思い出は形を変えて「夢」になるんだ。
そしてその夢を失わない限り、いつか夢は叶う日がくる」
そう・・・もう一度ウルトラマンに・・・コスモスに会いたいと、
遠い昔・・・あの日コスモスと別れた時からずっと願ってきた。
そして・・・必ず真の勇者になるのだと、自分にそう誓った。
その夢を失わず、自分なりに精一杯生きてきたからだろうか?
コスモスと再会する事ができたのは。
  日が沈みかけた空を見上げながら、こんなにもムサシはすぐ傍に 居るというのに、
アヤノは彼がどこか遠くに離れて行ってしまうような気になった。
  ムサシ隊員は、いつかEYESを離れていくのかもしれない。
アヤノにはそんな風に感じたのである。
彼はきっとまだ、宇宙への夢を捨ててはいないのだろう。
己にだって手放したく無い夢がある。
ムサシを理解できるものの、彼がいなくなる事は辛い。
俯いて、黙ってしまったアヤノにムサシは気づいた。
話をそらすかのように、ムサシは彼女に話掛ける。
「あのさ・・・考え方変えれば、ここを壊す手間が省けたって思えない?アヤノちゃん」
唐突なムサシの言葉に、アヤノは一瞬きょとんとした表情になる。
「えっ?もう・・・ムサシ隊員たら!そんな事言ったら怒られるんだから」
笑いながらそう答えるアヤノ、そして舌をちょっと出しておどけて見せるムサシ、彼等のEYESペーサーが再び鳴る。
「はい、アヤノです」
「遊び過ぎて明日の勤務、遅刻するなよ?ア・ヤ・ぴょん」
ヒウラキャップの言葉に、テックサンダーに搭乗していた3人は思わずのけぞってしまった。
アヤノはキャップの忠告に、固まってしまっている。
「帰りましょう!ア・ヤ・ノ先輩。遅刻しちゃまずいですからね・・・」
「ん、もう!ムサシ隊員まで!」頬を膨らませて怒って見せる。
「ところで、アヤノちゃん?」 「・・・?」
「オフの時まで僕の事、ムサシ隊員な訳?」
自分を指差して、ムサシはアヤノに問いかける。
「えっ?何?だってムサシ隊員は、ムサシ隊員でしょ?」
「・・・・」思わずムサシの眉間にしわがよる。
「・・・まあ、いいっか」彼女に背を向け歩き出す。
「なあに?何なの?・・・待ってよ、ムサシ隊員ー!」
後を小走りで追いかけるアヤノ。
二人が後にしたこの遊園地の閉園まで、あと1週間。
ここがいつか二人にとって、思い出の地になるのだろうか。
                             

                              終






 画/坂上ナオト 「ウルトラマンコスモスコロナモード」

太陽の炎のように熱いパワーを秘めている超戦闘モード。

           無断転写を禁じます。第二次著作権承認済

                  (C)TSUBURAYA PROD.