ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート
【ウニトローダの恩返し】
町工場の活気が日増しに寂しくなりさらに追い討ちをかけるように工作機械は得体の知れない錆に侵食されたその錆はどんな洗浄剤や研磨機でも取り除くことができなかった
「こりゃ、サビじゃなくてカビだな」
ええっ? いきなりですかい、渡来教授。たった今、佐野さんが錆だって……。
「あ、ちょっと待って。やっぱカビじゃなくてサビだな」
「どっちなんです」
今のツッコミは坂本剛一である。機械が原因不明の錆に侵されたという下町の
とある町工場に、坂本は、渡来教授・楠木涼とともに取材に来ていた。
「ああ、見たまえ」
渡来が差し出したモニターには、錆のアップ画像が映っていた。坂本と工場主
・鈴木徳助が画面を凝視すると…………ドクン!
「おうっ、動いたっ」
2人はビクッと驚いた。
「とにかくサンプルを持ち帰って研究してみるよ」
シャーレに錆を採取する渡来。って、こらこら臭いを嗅ぐんじゃないっ。そして渡来は能天気にも「じゃーねー」と手を振って行ってしまった。そーゆ
ーキャラだっけ。
がっくり肩を落とす徳助を、昔馴染みの涼が慰める。
「心配しないで。教授が何とかしてくれるから」
心配しないでって言われてもねぇ……あの様子じゃ、徳助、ちょっぴりフ・ア・ン。
その晩、坂本と涼は徳助に連れられ、近所の寿司屋で馳走になっていた。
「特上のウニ出してくれ。特上のトロってのもあったな」
調子に乗る徳助。店の大将も気風がいい。
「江戸っ子はこーでなくちゃねぇ〜」
でも、徳さん、少々飲みすぎのようだね。明るく振舞っちゃいるが、錆のこと
が相当ショックみたいだ。羽目を外しすぎて、とうとう追い払われちゃった。
「じゃーなー、わけーの」
と、徳さんに手を振られ、坂本も満面の笑みで手を振り返す。あんたもそーゆ
ーキャラだっけ。
酔っ払ったまま寿司屋を出た徳助は、チャリで土手を走っていた。注:軽車両
の飲酒運転は禁止されています。って言ってるそばからどんがらがっしゃーん!
! あーあ、徳さん、人轢いちゃったよ。
徳助の自転車とまともに衝突した被害者は、思いっきり土手下に転げ落ちてい
った。「大丈夫ですか?」とおずおず近づくと……。
「うわ――――――――――――――――っ!」
なんと、流血の大惨事ぃっ! てぇへんだてぇへんだと泡食って血まみれの被
害者を担いで、とりあえず自宅に連れ帰った。
「お帰り、おまえさん」
古女房が陽気に迎える。娘と息子もやってきた。しかし徳さんは顔面蒼白、生
きた心地がしない。
「もうダメだ。終わったよおおおおお……交通事故だよ。重傷なんだよほほほほ
ほ……」
きゅっ救急車っと慌てて通報しに行こうとする女房を徳さんが慌てて止める。
「ちょちょっ、待ってくれ。だめだめだめ」
やっとこせ担いできた被害者を玄関の中に入れ、よいしょと寝かせた。頭に被
せた上着を取る。それを見た鈴木一家、一瞬フリーズ。どっ土偶……!?なわけ
ねーな。
「なによこれ、人?」
その素朴な疑問はごもっともです、奥さん。
「どーもよー、フツーの人間じゃねーみてーなんだよ」
みてーじゃなくて誰が見てもそーです、徳さん。
とんちんかんな会話を繰り広げる両親とは真逆に、子供たちはいたって冷静だ
った。なにゆえっ?
「エイリアンだよ」
「宇宙人」
「えええっ!? ううう宇宙人っ?」
そりゃ腰も抜かすわな。そのとき、その宇宙人が微かに反応した。
「言葉に反応してる」
「宇宙語翻訳機だよ」
「さすが宇宙人だねぇ」
……感心してる場合かっ。ある意味、子供たちにも感心してしまうが。って、
その横で徳さん、なにしてんの? 喉を小刻みにチョップ。それってもしかして
「ワレワレハチキュウジンダ」ってヤツですか。失笑。
そのとき、宇宙人が言葉らしき音を発した。
「…ウニ…トロ…ダ……」
「ウニ」「トロ」? 寿司か? ぐぅぅぅぅぅ……こっこれはもしや、腹の虫
が鳴ってんのかっ? うそっ。
「お寿司が食べたいのよ」
「腹ペコなんだ」
なんて賢くてやさしいお子さまたち。宇宙人もカンゲキ。
鈴木家の坊やが、さっきの寿司屋へちょっくらひとっ走りする。
「本当にウニとトロだけでいいんだな?」
「うん!」
「それにしても贅沢なお客だねぇ」
「宇宙人なんだ!」
「へっ?」
嗚呼、子供って……オ・シャ・ベ・リ。
なにはともあれ、無事、食事にありつけた宇宙人は、ひょいパクひょいパク…
と一心不乱に寿司をほおばる。するとどうでしょう。
「見て、傷が治ってく」。
寿司を一口ほおばるたびに、みるみる傷が消えていったのでした。「ワサビが
効いたのかな」とゆー徳さんのダジャレはさておき、宇宙人、完食―――っ!
そして、きちんと正座に座り直した宇宙人は地球語で言った。
「私はウニトローダ星人です。危ないところを助けていただいて、ありがとうご
ざいます」
交通事故被害宇宙人ウニトローダは礼儀正しかった。
「いやっ、オレっちも酔っ払って自転車なんか乗っちまって申し訳なかったなー
」
「このご恩は一生忘れません」「こりゃ、ご丁寧に」「あー、いえいえ、こちら
こそ」……エンドレスなので割愛。
翌日、坂本と涼は、渡来教授の研究室を訪ねた。ドアを開けると、ズンドコド
コドコズンドコドコドコ……と大音量の太鼓の音が脳天をぶち抜いた。
なんじゃこりゃああああああとたまらず耳を塞ぐ2人。未開発地域の原住民が
祭りでもやってんのかぁっ!と見ると、原住民、いや教授が溺れてるぅっ!じゃ
なくて壊れ…違いますね、そう、太鼓のリズムに合わせて腰をフリフリ警戒に…
いえ、軽快に踊ってるんです。って、なにやってんですかっ、草刈さ…もとい渡
来教授っ!
誰かっ早く止めてっ。
「先生!」
「おっ?」
やっと教授が止まる。よかった、草刈さん壊れちゃったかと思った、どぎまぎ
。音量も下げてくれた。
「ちょっと、これ見て、ぜえっぜえっ」
激しい踊りに、動悸、めまい、息切れの症状をこらえながら、教授は2人に例
の錆を見せた。
「ドラムに反応して増殖するんだよ、はあっはあっ」(だいじょうーぶですか、
この人)
教授はまたもや音量を上げた。まだ踊る気かっ。(あんたが反応してどーする
。)死んじゃうって。2人は咄嗟に耳を塞ぐ。って教授の身体は心配じゃないの
かっ。だがそのとき、目を疑う光景に2人は驚愕した。
錆が太鼓のリズムに合わせてもぞもぞと動いているのだ。これでは、きょーじ
ゅどころではない。教授は音を消し、解説する。
「色々試してみたんだが、特にアフリカと日本の太鼓に敏感に反応する」
「変なサビですね」
涼ちゃん、すかさずツッコミ。
「サビとカビの特徴を併せ持つまったくの新種だ。こんなサビ、見たこともない
」
「要するに、謎のまま?」
「んだ」
ほわんほわんほわんほわんほわわわわわん……。
一方、徳さんの工場前にはパトカーが出動していた。近所の住民らも騒ぎを聞
きつけわらわらと集まってくる。
お巡りさんが言うには、宇宙人が現れたという通報を受けたとのことだ。おそ
らく寿司屋の大将が通報したのだろう。だが徳さんは最後まで白を切り通した。
「わかりました。いたずら電話でしょう」
警官はあきらめて帰っていった。住民も散る。そこへ、涼が血相を変えて駆け
寄ってきた。
「おじさん、なによ、宇宙人って」
鈴木家の居間では、子供たちがカレーを食べていた。
「こんにちわー。おいしそうなカレーだね」
涼が子供たちに声をかける。と、そこにエプロン姿のウニトローダがやってき
た。キミ、居ついちゃったのね、鈴木さんちに。
「こんにちわ。ボクのカレー、食べますか?」
「わっ!!!!!」
坂本と涼、それに寿司屋夫婦、揃いも揃って驚きのあまり、後ろに飛んだ。
「やっぱケーサツ呼ぼー!」
冷凍マグロのよーな口で叫ぶ寿司屋の女将さんの一言に、鈴木家の長女が青く
なった。
「やめて!」
弟の坊やも一生懸命訴える。
「ケガしてウチに来たんだ」
こっこれはいったい、と冷や汗かきかき大将が徳さんに詰め寄る。そんなとき
でもウニトローダは親切にカレーを持ってやってきた。
「はい、どうぞ」
「おっ、すまねー。美味いよ、これ」
って、あんた、ウニトローダに気づかなかったのかっ。
「宇宙人てのは悪よ。昔から相場が決まってら」
「警察はやめて! ウニトローダはおとなしい宇宙人なの」
長女は健気にも訴える。と、そこへ町工場仲間がすっ飛んできた。
「徳さんっ、やややられたっ。サビだ、サビ。もうおしめーだぁ……」とほほと徳さんに泣きつく仲間の横で、大将がぎらりとウニトローダを指差し
た。
「あいつだ」
…って、いない。
「逃げたんだ。あいつが犯人よ。サビをばらまいたんだ」
ウニトローダを悪質宇宙人と決めつける大将。
「んにゃ、寿司が好きだってことはよ、ワサビが好きなんだよ。ワサビ、ワサビ
といえばサビだよ。サビといえばワサビ」
「いや、むちゃくちゃだよ」
ナイスツッコミ、坂本っちゃん。
その頃、ウニトローダはハンドパワーのような光線を、工場の機械にこびりつ
いたサビだかカビだかめがけて発射させていた。
「ウニウニトロトロウニウニトロトロ……」
あのう、もしもしウニトローダさん、その呪文でサビとかカビが消えるんでし
ょうか? ではついでに我が家の浴室も……バキョッ(鼻血)……失礼致しまし
た、物語を続けましょうね。イタタタタ……。
「おい、サビが消えてくよ」
へっ? じゃ、やっぱり我が家の浴室も……ドカッ。すっすいませんすいませ
ん、って、あれ? ウニトローダが倒れちゃったっ! 今ので力を使い果たした
のか。
「おい、大丈夫かっ!?」
徳さんが駆け寄り、ウニトローダを抱き上げた。ウニトローダは気力をふりし
ぼり、口を開く。
「恩返し……助けてもらった……」
ぶわ―――――っ! 徳さんカンゲキ!
「おい、聞いたか? こいつぁ見上げた宇宙人だぜ」
「久々に聞いたよ、恩返しなんて言葉」
女房も感極まる。すると、再びウニトローダが口を開いた。
「サビコング……」
「サビコング?」
坂本が訊き返す。ウニトローダは怯えたように答えた。
「怖い怪獣……」
「これがサビコング……」
ウニトローダが描いてくれたスケッチを見ながら、渡来教授が呟く。錆の集合
体だというサビコングによる被害は、ウニトローダの惑星にも及んでいたらしい
。
「先生、なんとかしてください」
坂本剛一の懇願に、教授、顎に手をあて、しばし考え中、考え中。と、おもむ
ろに顔を上げた。
「ぴーん」
鬼太郎の妖怪センサーかっ。すんばらしいアイデアを思いついちゃったようで
ある。
こうして、渡来の発案の下、工場の従業員及びご近所のみなさん総出でウニト
ローダの宇宙船が修復されることとなった。
腕に覚えのある下町の職人たちが総力を結集した宇宙船はたちまち元通りに修復された
最後の仕上げに、工場主・鈴木徳助は満足げにうんうんとうなずく。
「ウニ公、どうだ?」
「うん、すばらしいですぅ」
キラキラリーンと輝くマイ母船に、ウニトローダも大喜びだ。作業員たちから
も割れんばかりの拍手が巻き起こる。ワ―――――ッパチパチパチパチパチパチ
パチ!!
「みなさんのおかげです」
なんて礼儀正しい宇宙人でしょう。感涙。そこへ坂本と楠木涼もやってきて、
見事復活した宇宙船に、眩しげに魅入った。だが、坂本に一抹の不安がよぎる。
「本当に実行するんですか? 逆噴射作戦」
機長っやめてくださいっ(すいませんねぇ、逆噴射と聞くとどーしても言わず
にはいられないんです)。
「はい」
笑顔でうなずくウニトローダに、涼も不安げな顔を隠せない。
「本当にいいの? 二度と故郷には帰れなくなるのよ」
「うっ……」
一瞬言葉に詰まった。坂本も案ずる。
「それに、命の保障もない」
それでも、男なら戦うときが来る〜♪なのだ。ウニトローダはきっ…と強い瞳
を投げ返した。
「やります。これしか方法はないんです」
「ううう…、この子、恩返しするつもりなんだよ、命かけて」
徳さんの奥さんは思わず感極まった。
「ママさん、泣かないで。ボクは大丈夫」
「ウニトローダ、死なないで!」
子供たち、寿司屋の大将、人情味溢れる下町っ子の面々も、ウニトローダの心
意気に感動して泣きすがる。
「ちきしょー、極上のウニとトロ食わしとくんだったっ」
「泣くんじゃねーよ、縁起わりーな」
ふるふると涙をこらえる徳さん。実はあんたが一番つらいってのは、みんなよ
ーくわかってるよ。もちろん、ウニトローダもね。
かくして渡来博士が発案した《サビコングそ〜れそれそれ作戦》が実行され
た
佐野さん、あなたもですか……。
広場ではやぐらが組まれ、ドンドコドコドコドンドコドコドコ……太鼓が打ち
鳴らされていた……と思ったら、音響だったのね。坂本がボリューム調整しなが
ら、サビコングの出現を待っていた。
しかし、本当にこんなんでサビコングが出てくるのかい、涼ちゃん?
「先生は自信満々だったけどね」
その先生、研究室でなんか怪しげな動きをしてますけど。
「遥か昔、火山は噴火し、大地は□◎■△〒○▲※▽●▼……」
しかも、あまりに熱く語るもんだから聞き取り不能。えっ、まだ語るんですか
っ。それもカメラ目線で。
「誕生したばかりの原始生命体はその波動を体内に取り込み細胞分裂し進化を続
けた」
えーと、岡本太郎さんですか? まっまだ続くのかっ。
「太鼓の響きは命の鼓動だっ! そ〜れそれそれそれそれそれそれ……それ――
――――――っ!!!!」
ゲージツはバクハツだっ! 終わった? 終わったか。
一方、工場前に待機していた鈴木家の坊やはびびったっ。工場内から錆がうに
ょろうにょろと流れ出してきたのだ。
坊やは逃げる。逃げる。そして逃げるっ! 錆も坊やの後をぴったりマークし
て追っかけてくるぞっ! 坊やは絶叫と共に死に物狂いで走る。
てやんでいっ!こちとら江戸っ子でいでいでいっ!
「■△◎▽●□▲※▼〒△■○▼▲▼○※■〒△◎▲※□〒▲!!!!」
坊ちゃん、なに叫んでるかわかりませんぜ。
「とおーちゃああああああああああああああんっっっ!!!」
おっ、やっと日本語が話せるようになったか。って坊やの背後には、サビウェ
ーヴが怒涛のように迫ってくるぅっ! やっぱ逃げろっ!
「ウニトローダ、サビが動き出したぞ!」
それを見た徳さんは、ウニトローダにでかい携帯電話(古っ。時代設定がわか
っちゃうね)で知らせると、坊やと共に軽トラに飛び乗った。
アクセル全開で下町を猛走する軽トラの後を、サビが濁流のように押し寄せて
くる。
よしっ、そこの角で曲がれっ。っしゃーっ、かわしたっ。ってサビも曲がって
きたよおおおん。猪じゃなかったか。どーすんだよおおおん。
「とーちゃん、はやくはやく。追いつかれちゃうよ!」
「てやんでぃ、あんなバケモノにつかまってたまるかいっ!」
サビの川で溺れ死んだなんて朝刊に載ったら、そりゃたまらんわ。
ズンドコドコドコズンドコドコドコ……はっはっはっ……広場では太鼓の音が
ますます鳴り響いていた。
すると、そこへ徳さんと坊やを乗せた軽トラが、間一髪広場に辿り着いた。だ
が、その背後には錆のビッグウエーーーーヴが……でっでかいっ、千葉のサーフ
ァーも真っ青なほどに。
「まだまだ―――っ! 叩けー! 響けー! サビよ、目覚めるんだっ!」
坂本は張り叫びながら出力を最大限にアップした。スピーカーが激しく振動す
る。坂本の熱い血潮もざわざわと騒ぎ出す。
「はっはっはっはっはっはっはっはっ……!」
はっはっはっ袴田くん……もはやノーコメント……。
と、そのときだ。錆の大波がどどどーーーんと跳んだかと思うと、集合体とな
って一つの形を成した。坂本は音を止めた。
ザンザザーーーーーン。サビコング現るっ! でっでかいっ。ハワイのサーフ
ァーもびっくり。う〜ん、でもなんかグビラに似てる……。錆びた鉄板を体中に
貼り付けたグビラってな感じ。
って、分析してる場合じゃないっ。パニックに陥り、逃げ惑う人々。とっとに
かく、逃げるしかないだろ、ここはっ!
「来た。先生の推論は正しかったんだ」
そのとき、颯爽とヒーロー登場〜〜〜〜っ! よっ! 待ってましたっウニト
ローダ!
「みんな、ありがとう」
下町の職人さんたちが丹精込めて修復してくれた宇宙船を自在に操り、我らが
ヒーロー・ウニトローダがいくぜっ!
「ウニトローダ、気をつけて」
「頼んだぞ、ウニトローダ」
フレーフレー、ウニトローダ! がんばるキミの背中にWe'll be together♪
みんながついてるからな!
「サビコング、このウニ公が徳さんを、この町を守るんだ!」
くううう、泣かせるねぇ。みんなの声援をパワーに変えて、ウニ公がサビコン
グに敢然と立ち向かう。
ぼひゅんぼひゅんと錆ビームを口から発射するサビコングの攻撃は容赦ないが
、それでもウニトローダは器用にかわしていく。
ウニトローダのかわした錆ビームが、ビルを直撃、破壊する。それを見ただけ
でも、錆ビームの破壊力の凄まじさは想像に難くない。
「剛にいちゃん、ウニトローダはなぜ攻撃しないの?」
坊やが坂本に訊いた。
「サビコングの皮膚はとてつもなく硬いんだ。だから、ポイントはただひとつ…
…」
坂本は、じっとサビコングを見据えた。よっ、男前っ。
下町の仲間たちが見守る中、ウニトローダはある一つのポイント、ただそれだ
けを狙っていた。
「今だ―――――――――――――――っっっ!!!」
すぽんっ。
「食われた!」
サビコングの口めがけて突進していったかと思うと、ウニトローダは自らサビ
コングの体内に飛び込んだのだ。
「これがウニトローダの狙い?」
「敵の心臓部めがけ、内側から宇宙船を逆噴射させ、破壊する」
涼に説明しながら、坂本はサビコングのデータモニターを見た。やにわに青ざ
める。サビコングの体内はダメージを受けていない。
「ダメだ。宇宙船の噴射熱が足りなかったんだ」
「じゃあ?」
「作戦は失敗だ」
がががががーーーーーん。誰もが最悪の事態を想定したそのとき、ウニトロー
ダから無線が入った。
「これから、ワープ用噴射爆発を使用します」
ななななんですと!? そんなことしたら、キミもただじゃすまないんだよ。
最悪、宇宙船もろとも爆発に巻き込まれてしまう。
「やめて、ウニトローダ!」
「ウニ公、死ぬんじゃねーぞ!」
お嬢ちゃんも徳さんも必死で止める。当たり前だよね。だって、大切な仲間じ
ゃないか。
「大丈夫です。徳さんの造ってくれたフレーム、今の噴射でもびくともしません
でした。宇宙一です。徳ちゃん」
「徳ちゃん…て……」
「ありがとう」
「ウニ公……」
ちゅどどどどーーーーーーん!!!! その瞬間、サビコングの体内が大爆発
を起こし、サビコングは粉々に吹っ飛んだ。
体験したこともないような波動がうわんうわんと大地を走る。その場にいた全
員がひっくり返った。
波動が止んだ。おそるおそる顔を上げると、サビコングは跡形もなく消えてい
た。もうもうと立ち込める噴煙の中の光景に、一同思わず息を呑む。
そこには宇宙船の変わり果てた姿があった。
「ウニ公ーーーーっ! 大丈夫かっ!?」
取り乱し、ダッシュで宇宙船に駆け寄る徳さん。噴煙を払いのけ、熱さも忘れ
、無我夢中で宇宙船のふたを開ける。と、ウニ公が……
「ウニ公ーーーーー! ウニ公ーーーーーーーーーー!」
ウニ公は目を閉じていた。ピクリとも動かない。うそだろ…と徳さんはウニト
ローダにしがみついた。そのときだ。
「徳ちゃん……」
ぱかっ。ウニトローダが目を開けた。
「ウニ公、生きてるよ」
にっこり微笑むウニトローダを、徳さんは顔をくしゃくしゃにしながら見つめ
た。
「生きてる……」
生きている。ウニトローダは生きている。ここにこうして生きている。奇跡は
起きたのだ。
「おーーーい! 生きてるぞーーーー!」
振り向いた徳さんの歓声に、下町の仲間たちも諸手を上げて狂喜乱舞した。
生きてる、生きてる。かつてこれほどまでに生ということにこだわったことが
あっただろうか。今はただ、生きていることが単純にうれしい。それも異星人の
生命が、だ。
「ありがとう、ウニ公。助かったよ、町工場」
みんなでウニトローダを胴上げだいっ! そ〜れ、わっしょいわっしょい!
異星の青空に、ウニトローダは高く高く舞っていた。この空はきっと、キミの
故郷にもつながっているんだよね。
ウニトローダ星人は町の人たちに一生懸命恩返しをしましたその後彼はどうなったのでしょう
ウニトローダは、鈴木家の子供たちと一緒に、江戸川(たぶん)の河川敷で自
転車の練習をしていた。
彼は下町で暮らし、下町で働くことになりました
宇宙人が地球で共に働く時代が来たのです
「ウニトローダくん、店からの就職祝いです」
寿司屋に集まった徳さんたちが祝福する中、大将から特大ウニトロ軍艦ケーキ
をプレゼントされたウニトローダは、幸せいっぱいの笑顔で喜びを表した。
「ウニだ。トロだ。ウニトローダ――――――ッ!!」
<ウルトラQ〜dark fantasy〜【ウニトローダの恩返し】終>