ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート

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無断転写はご遠慮願います。番組レポート/しー坊主

ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート 【綺亞羅】《前》
都会の一角、ジャズバーでベースを奏でる男がいる。

カウンターでは、彼を見つめる美少女が一人。だが 男は、純白のドレスに身を包んだ彼女に気づかない。

演奏が終わると、DJはまばらな拍手をさほど気にもせず、マイクに声を近づけた。
「今夜はベースの坂口理さんをお迎えして、バスタ ー・カークランドのナンバーをお送りしています」引き続き次の曲へ移ろうとする。と、そのとき、 ようやく坂口は少女の存在に気づいた。惹きつけられるように彼女を見つめる。が、DJの呼ぶ声に引き戻され、再びベースを弾きはじめた。

帰り道、ジャズの流れる車内で、閉店後のDJとのやりとりを思い出す。
「坂口さん、お疲れさまでした」
「ああ、また呼んでくれよ」
「…そ…うですね」
一瞬遅れたDJの返答に、さすがに悟った。もう二 度とこの店でベースを弾くことはないのだと。

苛ついたようにカセットを消す。そこへ突如人影が 現れた。慌ててハンドルを右に切る。間一髪のところで惨事は免れた、はずだ。車を降り、路上に横たわる少女に駆け寄る。驚いた。その少女は、先ほどカウンターでたたずん でいた、白いドレスの美少女だった。
「大丈夫か?」
眼を閉じたままの少女を抱き上げる。すると、少女 はうっすらと瞼を開け、か細く言った。
「連れてって……」
解せない一言ではあったが、それよりも坂口は不気味な感触にぎくりとしていた。少女の背を支えていた右の手の平をおそるおそる覗く。手の平は、どろりとした透明なブルーの液体に濡れていた。
坂口は少女を自宅に連れ帰ると、まずソファに横たえた。彼女はピクリとも動かない。息を確かめる。どうやら命に別状はないようだ。ほっと胸をなでおろす。毛布をかけてやろうとベッドに取りに行き、ソファ に戻った。
が、少女は忽然と姿を消していた。ほんの 数秒のことである。辺りを見回すが、の部屋にはいない。
怪訝な顔つきで視線を移すと、飾り棚のボトルに目が 留まった。おもむろに手に取る。未開封のままの酒瓶。しばらくそれを見つめると、また元に戻し、背を 向けた。そこで一瞬、坂口の身体が強張る。その視線の先には、床にどろりと広がる、透明なブルーの液体があった。

「よう、坂口」とあるレコード会社のロビーに坂口を待たせていたのは、学生時代の友人・田中だった。
「いいもの見つけたぞ」田中が一枚のLPを差し出す。
「バスター・カークランド……。こんなのあったっけ?」
「鈍いヤツだなぁ。何番って書いてある?」
言われて初めて坂口は、ジャケットの下にある文 に気づいた。
「1553……」バスター・カークランド栄光のBLUE MODEレーベルだ。だが、1553番は、確か欠番のはずである。
「はっ、ありえないだろ、これ」信じられないといったふうに坂口は一蹴しようとした。ジャズ黄金時代を築いたBLUE MODE1500番台には、2枚の欠番がある。1553番と1592番がそれだ。1592番はクラブの未発表版として後にリリースされた。
ところが1553番は最初から存在しなかったのである。
1553 番はサンプルを一部プレスしただけで、あとはプロデ ューサーがバスターごとボツにしたという。

2人はカフェに移動していた。「聴きてぇなぁ〜。どうだった? バスターのプレイ」
瞳を輝かせる坂口の問いに、田中は冷めた口調で答える。
「ああ、いまいちだったよ」
酒に溺れ、天使にとり憑かれたと公言して回り、挙句の果てに収容先の病院でのたれ死んだというバスター・カークランド。学生時代から憧れていたベーシストの憐れな末路に、虚しさとシンパシーが複雑に絡み合う。
「田中、ついでというのもなんだけど、なんか仕事ないかな」
「おまえな、会社辞めてまでベース弾いてるのもどうかと思うぜ」
「俺は……ちゃんと食えてるよ」田中の顔つきが変わった。
「食えてないからこうやって頼んでるんだろ。国民年金、ちゃんと払ってんのか?」あの頃みたいにただ楽しいだけ、ただ若いだけではやっていけない現実から眼を背け、未だしがない夢を追い続ける坂口に、焦燥の眼差しで憤りをぶつける。

と、そこへ例の美少女が突然現れ、田中を椅子ごと後ろにぐいと引き倒した。
「おまえ、なんでここへ……」坂口は、自分の部屋から忽然と姿を消した少女が 再び目の前に現れたことに驚いた。事情を知らない田中は、起き上がると少女を怒りの形相で睨みつける。が、逆に少女の鋭い眼光に気圧され、怯んだ。
「仕事はなんとかするよ」憤慨をどうにか抑え、田中はその場を立ち去った。

坂口は少女に近づき、困惑の表情を浮かべる。
「どうしてこんなことした?」だが、少女は黙ったまま、坂口にも突き刺すような眼光を差し向けた。

街の雑踏を少女と2人、並んで歩く。
「あいつはあれでも学生時代は、スティーヴ・ダッドのコピーをやらせたら、日本一のドラマーだったんだ」
少女に旧友・田中の話をして聞かせる。未だに田中が手首につけている皮のバングルには、スティーヴ・ダッドのイニシャル「S・D」の文字が刻まれていることを、坂口は知っていた。偉ぶっているように見えて、その実、自分のことを心配してくれているのだと、少女に言う。
だが、少女は氷のような瞳で空中を仰ぎ、冷たく言い放った。
「あの人がどんなにあんたを馬鹿にしても、心配してくれてるってありがたがってるんだ」
そして、氷の瞳を坂口に戻し、薄嗤いを投げつける。「自分で鼻っ面殴ってやればいいんだ」秀美な顔に似合わず、物騒な台詞を平然と言ってのける少女に、一瞬戸惑いは見せたものの、なぜか恐れは感じなかった。
「はっ……」余計な思惟を払拭するかのように、坂口は再び歩き出す。少女も彼の後をついていった。

田中がデスクに戻ると、ジュラルミンケースの上に置いてあったはずのバスターのLPが消えていた。
その代わりというべきか、ケースの上には透明なブルーの液体がぶちまけられてあった。
不審に思った田中は、警備員と共に社内に設置されている監視カメラを確認する。カメラは廊下を歩く少女の姿を捉えていた。
やはり…と、少女に向けて猜疑の眼が光る。
「あれっ?」

警備員はカメラの中の少女を刮目した。一瞬少女が 消え、また現れ、そして消え、また……。
「ああ、もういい。警察呼んでくれ」
田中は呆れ気味に言い捨てた。LPを盗んだのは彼女に間違いない。確信めいたものを感じていた。あとは警察の仕事である。

坂口と少女はコンビニに立ち寄った。優雅な足取りで商品をカゴに放り込む美少女に、店員も思わず魅入っている。
坂口もいつしかこの美少女の虜となっていたのだろうか。何の疑いもなく少女を自室へ招き入れ、椅子にちょこんと可愛らしく座る彼女を前に、ベースを奏でる。
その姿が時折、バスターと重なった。
「腹減ったろ。なんか作るよ」
冷蔵庫を開け、振り返ると、少女が1枚のLPを手に取り、それをじっと見つめたままたたずんでいた。
見ると、それは田中が持っているはずのバスターのLPだった。少女からLPを取り上げる。
「あんたはこれが聴きたかったんでしょ。あんなヤツなんかに、この音楽のよさはわからない」
だからといって、勝手に持ってきていいわけがない。
「意気地がないのね」
少女は嘲笑にも似た微笑で、坂口を一瞥する。坂口は眉をひそめた。
「なんだと?」
「思い通りに生きてるつもりでも、結局他人の顔色ば かり気にして、逃げ場所ばっかり探してるんだわ」
ぎくりとした。図星なのか。自分は今まで、それに気づかないフリをして生きてきただけなのかもしれない。
やにわに自己嫌悪に陥り、未開封の酒瓶を乱暴に開 けた。なみなみと仰ぐ。その様子から、少女は目を逸らさずにいた。
流し込まれる酒の勢いに負け、むせ込んだ坂口の手からボトルがするりと放れる。床に叩きつけられ割れたボトルの破片が、無数の骸となって散りばめられた。

坂口は7年前、心臓を患って、一度倒れたことがあった。
体質もあるのだろうが、彼の場合は酒が毒となり、その身体を蝕んでいったようだ。

「手術の後、あいつは会社を辞めて、好きな道を生きていくとか何とか言ってね」
同僚に説明する田中の傍らで、監視カメラを見つめていた警備員が怪訝そうな声を発する。
「なんだぁ?」
少女とともにカメラに映り込んでいたのは、彼女の周囲にまとわりつく数体の亡霊たちだった。

バスター・カークランドは、奇矯な行動のエピソードのほうが有名だけど、俺は何より、彼の弾くベ ースの音が好きだった。
世に名を馳せたベーシストがこよなく愛した酒は しかし百薬の長とはならずに劇毒と化し、やがて彼の身も心もずたぼろに侵していった。

演奏もそこそこにベースを放り出し、酒を浴びながらステージを降りるバスター。覚束ない足取りで崩れるように客席へ座り込むと、テーブルの向こう側で一人の男がやさしい笑顔で迎えてくれた。

「会えるなんて思ってもみなかったよ」
そう微笑むと坂口はグラスを掲げた。そして乾杯。
そんな夢を見ていた。
呑めば命に関わるかもしれない。それを知りながら 自ら禁を解き、封印していた酒瓶に手を伸ばしたのだ。
気を失い、床に倒れこんだままの坂口を、少女が見つめる。
少女は無言で、羽衣のような薄いコートを脱いだ。それから華奢な腕をうなじに回し、細く長い髪を後から二つに分け、胸元に置いた。
背中のファスナーを下げるするとその背中から、ふうわりと2枚の蝶の羽が鮮やかに広がった。
それ は、ステンドグラスと見紛うばかりの艶やかさであった。
少女がツカツカと坂口に近づく。五色の薄羽がシュルシュルと伸びたかと思うと、そっと彼を包み込んだ。

混濁した胸の奥底に潜む意識の中で、坂口はようやく気づいた。彼女は、バスターの元に現れたという天使だったのだ。
俺みたいな三流のところへ来るなんて、ちょっとマヌケじゃないのか?
気まぐれな天使の真意は計り知れない。それでも坂口の寝顔には、笑みが浮かんでいただろうか。


ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート 【綺亞羅】《後》
朝の光に意識が戻る。いつの間にやら、2人はベッドで寄り添うように眠っていた。
もう少しこのままで いようか。そんなふうにシンクロした2人の想いを、無粋な音がかき消した。ドアをノックする音だ。

「坂口さん、いらっしゃいますよね」
来客か。坂口はむっくりと起き上がり、ドアに向かった。
「港署の者です」「警察?」
警戒しながらドアを開けると、数人の刑事が立っていた。中にはビデオカメラを向ける者もいる。
「坂口理さんですね?」坂口が同意するや否や、刑事たちは「失礼」と言うなりずかずかと室内へ踏み込んできた。坂口が抵抗する間もなく一人の刑事が声を上げる。
「いました!」

その目は明らかに少女に向けられていた。刑事は坂 口に同行を促す。
「ちょっと、盗難と未成年者の諸々の届けが出てまして」
田中が被害届けを出したのだろうか。坂口は一先ず、大人しく従うことにした。少女を振り返り「じゃあな」と短く告げると、彼女を残して部屋を出て行った。
その場に居残った刑事が、少女を撮影しながら言う。
「君も一緒に来なさい」そのときだ。少女の背後から数体の亡霊、いや悪霊たちがぶわっと噴き出し、刑事に襲いかかった。
「うわあああああああああああああああああああ!!」

パトカーに乗り込もうとしていた坂口と刑事たち は、その悲鳴に驚き、足を止めた。警官がアパートの階段を駆け上がり、部屋に飛び込んだ。しかし彼もまた、そこで悪霊に捕まり、絶叫したまま腰を抜かしてしまった。
アパートから飛び出してきた少女に気づき、坂口が駆け寄る。
「なにをしたんだ?」「なにもしてない」
刑事が慌てて迫りくる。坂口は迷わず少女の手を引 き、車に彼女を乗せ、猛スピードで走り去っていった。

「どこに行くの?」少女が訊く。
「どこに行くか考える時間はたっぷりあるからな」
残された時間を食い潰すように、当て所なく車を走らせる。少女はふと窓の外に目をやった。
「随分、窮屈になっちゃったんだね、ここも」
遠い瞳、遠い空。都会という無機質な箱に、ぎっしりと詰め込まれたコンクリートの隙間から覗かせる緑みたいに、この果てなく続く空の面積も、次第に狭くなってゆく。
道路頭上に設置されたオービスが、ナンバーと車内 の2人を捉えた。
それに気づかずに、シートの間に置かれた2つの手が距離を縮める。が、重なりそうで重ならない。
触れるまでの勇気はなかった。触れてしまったら、すべてが壊れてしまう気がしたのだろうか。
「どうして何も訊かないの?」「えっ」
「私が誰かとか、どこから来たかとか」確かに、なぜ訊かなかったのだろう。坂口は妙に可笑しさが込み上げた。
「私は綺亞羅」「そっか」
それ以上は何も訊かなかったし、彼女もそれきり何も言わなかった。ただ当て所なく車を走らせた。
できるだけ遠くへ。遠くへ……。

田中は社内の電話で、警察からの連絡を受けた。
「えっ……坂口がベースと一緒に……?」
受話器を置くと、一気に脱力感が襲った。力なく椅子にどっと座り込む。そのまま絶望の眼で放心した。
ジュラルミンケースの上には、バスター・カークランドのLPがあった。
高台で、坂口がベースを奏でる。なるべく空に近い 場所を選んだ。傍らでは綺亞羅が手摺に背を預け、その音色に聴き惚れている。

独房のような保護室に閉じ込められたバスターは、壁際に突如現れた天使を見た。
天使が見えていたバスター・カークランドは、
本当に不運なジャズマンだったのだろうか……

田中は一人、バスターのLPを聴きながら、涙に咽んでいた。親友を思い、スティーヴ・ダッドのイニシャルが刻まれたバングルをさする。
曲が終わった。ダイヤモンドのレコード針が上がり、オートで元に戻ると、田中は拳を床に叩きつけ、激しい慟哭と共に崩れていった。

刑事に見つかった坂口と綺亞羅は、再び逃避行を余儀なくされた。
息切らし辿り着いた橋の上で、綺亞羅が不意に立ち止まる。そっと、手を差し出した。
天使の微笑を浮かべ、蝶の羽を広げる。坂口はいざなわれるように彼女の白い手を掴んだ。ふわり……足が離れる。
2人は翔んでいた。
手と手を取り合い、大空に向かって舞い上がる。
不運とは対極にある幸せそうな笑顔で、どこまでも高く、高く、高く……。

だが、刑事たちは橋の下を見ていた。橋の下を通り がかった野次馬も、好奇の目でわらわらと集まってくる。彼らの視線の先には、地面に叩きつけられた坂口の遺体が転がっていた。

粉々に砕け散ったベースの残骸の傍らで、おびただしい鮮血がコンクリートを染めている。
綺亞羅と名乗る美少女は、本物の天使だったのか。

それとも、天使の名を借りた死神だったのか。バスターのLPは紅蓮の炎に包まれていった。

「俺は、坂口のヤツがうらやましかったんだ。嫉妬してたんだよ」
田中は夜の街頭を歩きながら、同僚に本心をさらけ 出した。無論、今さら気づいてももう遅いことは百も承知だ。それでも誰かに吐露したかった。
懺悔のつもりもあったかもしれない。

前方から歩いてきた髪の長い少女と、肩が触れ合う ほどにすれ違う。

それに気も留めず、歩き去る田中の 背中を少女はじっと見つめていた。天使の微笑を浮かべながら……。

BLUE MODE1500番台の欠番1553は今もそしてこれからもずっと欠番となっているのです


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ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート 【ウニトローダの恩返し】
町工場の活気が日増しに寂しくなりさらに追い討ちをかけるように工作機械は得体の知れない錆に侵食されたその錆はどんな洗浄剤や研磨機でも取り除くことができなかった

「こりゃ、サビじゃなくてカビだな」
 ええっ? いきなりですかい、渡来教授。たった今、佐野さんが錆だって……。
「あ、ちょっと待って。やっぱカビじゃなくてサビだな」
「どっちなんです」

今のツッコミは坂本剛一である。機械が原因不明の錆に侵されたという下町の とある町工場に、坂本は、渡来教授・楠木涼とともに取材に来ていた。

「ああ、見たまえ」
渡来が差し出したモニターには、錆のアップ画像が映っていた。坂本と工場主 ・鈴木徳助が画面を凝視すると…………ドクン!

「おうっ、動いたっ」
2人はビクッと驚いた。
「とにかくサンプルを持ち帰って研究してみるよ」
シャーレに錆を採取する渡来。って、こらこら臭いを嗅ぐんじゃないっ。そして渡来は能天気にも「じゃーねー」と手を振って行ってしまった。そーゆ ーキャラだっけ。
がっくり肩を落とす徳助を、昔馴染みの涼が慰める。
「心配しないで。教授が何とかしてくれるから」
心配しないでって言われてもねぇ……あの様子じゃ、徳助、ちょっぴりフ・ア・ン。

その晩、坂本と涼は徳助に連れられ、近所の寿司屋で馳走になっていた。
「特上のウニ出してくれ。特上のトロってのもあったな」
調子に乗る徳助。店の大将も気風がいい。
「江戸っ子はこーでなくちゃねぇ〜」
でも、徳さん、少々飲みすぎのようだね。明るく振舞っちゃいるが、錆のこと が相当ショックみたいだ。羽目を外しすぎて、とうとう追い払われちゃった。

「じゃーなー、わけーの」
と、徳さんに手を振られ、坂本も満面の笑みで手を振り返す。あんたもそーゆ ーキャラだっけ。

酔っ払ったまま寿司屋を出た徳助は、チャリで土手を走っていた。注:軽車両 の飲酒運転は禁止されています。って言ってるそばからどんがらがっしゃーん! ! あーあ、徳さん、人轢いちゃったよ。

徳助の自転車とまともに衝突した被害者は、思いっきり土手下に転げ落ちてい った。「大丈夫ですか?」とおずおず近づくと……。

「うわ――――――――――――――――っ!」
なんと、流血の大惨事ぃっ! てぇへんだてぇへんだと泡食って血まみれの被 害者を担いで、とりあえず自宅に連れ帰った。

「お帰り、おまえさん」
古女房が陽気に迎える。娘と息子もやってきた。しかし徳さんは顔面蒼白、生 きた心地がしない。

「もうダメだ。終わったよおおおおお……交通事故だよ。重傷なんだよほほほほ ほ……」
きゅっ救急車っと慌てて通報しに行こうとする女房を徳さんが慌てて止める。
「ちょちょっ、待ってくれ。だめだめだめ」
やっとこせ担いできた被害者を玄関の中に入れ、よいしょと寝かせた。頭に被 せた上着を取る。それを見た鈴木一家、一瞬フリーズ。どっ土偶……!?なわけ ねーな。

「なによこれ、人?」
その素朴な疑問はごもっともです、奥さん。
「どーもよー、フツーの人間じゃねーみてーなんだよ」 みてーじゃなくて誰が見てもそーです、徳さん。

とんちんかんな会話を繰り広げる両親とは真逆に、子供たちはいたって冷静だ った。なにゆえっ?
「エイリアンだよ」
「宇宙人」
「えええっ!? ううう宇宙人っ?」
そりゃ腰も抜かすわな。そのとき、その宇宙人が微かに反応した。
「言葉に反応してる」
「宇宙語翻訳機だよ」
「さすが宇宙人だねぇ」

……感心してる場合かっ。ある意味、子供たちにも感心してしまうが。って、 その横で徳さん、なにしてんの? 喉を小刻みにチョップ。それってもしかして
「ワレワレハチキュウジンダ」ってヤツですか。失笑。
そのとき、宇宙人が言葉らしき音を発した。
「…ウニ…トロ…ダ……」
「ウニ」「トロ」? 寿司か? ぐぅぅぅぅぅ……こっこれはもしや、腹の虫 が鳴ってんのかっ? うそっ。

「お寿司が食べたいのよ」
「腹ペコなんだ」
なんて賢くてやさしいお子さまたち。宇宙人もカンゲキ。

鈴木家の坊やが、さっきの寿司屋へちょっくらひとっ走りする。
「本当にウニとトロだけでいいんだな?」
「うん!」
「それにしても贅沢なお客だねぇ」
「宇宙人なんだ!」
「へっ?」
 嗚呼、子供って……オ・シャ・ベ・リ。

なにはともあれ、無事、食事にありつけた宇宙人は、ひょいパクひょいパク… と一心不乱に寿司をほおばる。するとどうでしょう。

「見て、傷が治ってく」。
寿司を一口ほおばるたびに、みるみる傷が消えていったのでした。「ワサビが 効いたのかな」とゆー徳さんのダジャレはさておき、宇宙人、完食―――っ! 

そして、きちんと正座に座り直した宇宙人は地球語で言った。
「私はウニトローダ星人です。危ないところを助けていただいて、ありがとうご ざいます」
交通事故被害宇宙人ウニトローダは礼儀正しかった。
「いやっ、オレっちも酔っ払って自転車なんか乗っちまって申し訳なかったなー 」
「このご恩は一生忘れません」「こりゃ、ご丁寧に」「あー、いえいえ、こちら こそ」……エンドレスなので割愛。

翌日、坂本と涼は、渡来教授の研究室を訪ねた。ドアを開けると、ズンドコド コドコズンドコドコドコ……と大音量の太鼓の音が脳天をぶち抜いた。

なんじゃこりゃああああああとたまらず耳を塞ぐ2人。未開発地域の原住民が 祭りでもやってんのかぁっ!と見ると、原住民、いや教授が溺れてるぅっ!じゃ なくて壊れ…違いますね、そう、太鼓のリズムに合わせて腰をフリフリ警戒に… いえ、軽快に踊ってるんです。って、なにやってんですかっ、草刈さ…もとい渡 来教授っ!

  誰かっ早く止めてっ。
「先生!」
「おっ?」
 やっと教授が止まる。よかった、草刈さん壊れちゃったかと思った、どぎまぎ 。音量も下げてくれた。

「ちょっと、これ見て、ぜえっぜえっ」
激しい踊りに、動悸、めまい、息切れの症状をこらえながら、教授は2人に例 の錆を見せた。
「ドラムに反応して増殖するんだよ、はあっはあっ」(だいじょうーぶですか、 この人)
 教授はまたもや音量を上げた。まだ踊る気かっ。(あんたが反応してどーする 。)死んじゃうって。2人は咄嗟に耳を塞ぐ。って教授の身体は心配じゃないの かっ。だがそのとき、目を疑う光景に2人は驚愕した。

錆が太鼓のリズムに合わせてもぞもぞと動いているのだ。これでは、きょーじ ゅどころではない。教授は音を消し、解説する。

「色々試してみたんだが、特にアフリカと日本の太鼓に敏感に反応する」
「変なサビですね」
涼ちゃん、すかさずツッコミ。
「サビとカビの特徴を併せ持つまったくの新種だ。こんなサビ、見たこともない 」
「要するに、謎のまま?」 「んだ」  ほわんほわんほわんほわんほわわわわわん……。

一方、徳さんの工場前にはパトカーが出動していた。近所の住民らも騒ぎを聞 きつけわらわらと集まってくる。

お巡りさんが言うには、宇宙人が現れたという通報を受けたとのことだ。おそ らく寿司屋の大将が通報したのだろう。だが徳さんは最後まで白を切り通した。

「わかりました。いたずら電話でしょう」
警官はあきらめて帰っていった。住民も散る。そこへ、涼が血相を変えて駆け 寄ってきた。
「おじさん、なによ、宇宙人って」
鈴木家の居間では、子供たちがカレーを食べていた。
「こんにちわー。おいしそうなカレーだね」
涼が子供たちに声をかける。と、そこにエプロン姿のウニトローダがやってき た。キミ、居ついちゃったのね、鈴木さんちに。

「こんにちわ。ボクのカレー、食べますか?」 「わっ!!!!!」
坂本と涼、それに寿司屋夫婦、揃いも揃って驚きのあまり、後ろに飛んだ。
「やっぱケーサツ呼ぼー!」
冷凍マグロのよーな口で叫ぶ寿司屋の女将さんの一言に、鈴木家の長女が青く なった。
「やめて!」
弟の坊やも一生懸命訴える。
「ケガしてウチに来たんだ」
こっこれはいったい、と冷や汗かきかき大将が徳さんに詰め寄る。そんなとき でもウニトローダは親切にカレーを持ってやってきた。

「はい、どうぞ」 「おっ、すまねー。美味いよ、これ」 って、あんた、ウニトローダに気づかなかったのかっ。
「宇宙人てのは悪よ。昔から相場が決まってら」
「警察はやめて! ウニトローダはおとなしい宇宙人なの」
長女は健気にも訴える。と、そこへ町工場仲間がすっ飛んできた。
「徳さんっ、やややられたっ。サビだ、サビ。もうおしめーだぁ……」とほほと徳さんに泣きつく仲間の横で、大将がぎらりとウニトローダを指差し た。
「あいつだ」 …って、いない。
「逃げたんだ。あいつが犯人よ。サビをばらまいたんだ」
ウニトローダを悪質宇宙人と決めつける大将。
「んにゃ、寿司が好きだってことはよ、ワサビが好きなんだよ。ワサビ、ワサビ といえばサビだよ。サビといえばワサビ」
「いや、むちゃくちゃだよ」
ナイスツッコミ、坂本っちゃん。

その頃、ウニトローダはハンドパワーのような光線を、工場の機械にこびりつ いたサビだかカビだかめがけて発射させていた。
「ウニウニトロトロウニウニトロトロ……」
あのう、もしもしウニトローダさん、その呪文でサビとかカビが消えるんでし ょうか? ではついでに我が家の浴室も……バキョッ(鼻血)……失礼致しまし た、物語を続けましょうね。イタタタタ……。

「おい、サビが消えてくよ」
へっ? じゃ、やっぱり我が家の浴室も……ドカッ。すっすいませんすいませ ん、って、あれ? ウニトローダが倒れちゃったっ! 今ので力を使い果たした のか。

「おい、大丈夫かっ!?」
徳さんが駆け寄り、ウニトローダを抱き上げた。ウニトローダは気力をふりし ぼり、口を開く。

「恩返し……助けてもらった……」
ぶわ―――――っ! 徳さんカンゲキ!
「おい、聞いたか? こいつぁ見上げた宇宙人だぜ」
「久々に聞いたよ、恩返しなんて言葉」  女房も感極まる。すると、再びウニトローダが口を開いた。
「サビコング……」
「サビコング?」
坂本が訊き返す。ウニトローダは怯えたように答えた。
「怖い怪獣……」
「これがサビコング……」
ウニトローダが描いてくれたスケッチを見ながら、渡来教授が呟く。錆の集合 体だというサビコングによる被害は、ウニトローダの惑星にも及んでいたらしい 。

「先生、なんとかしてください」
坂本剛一の懇願に、教授、顎に手をあて、しばし考え中、考え中。と、おもむ ろに顔を上げた。
「ぴーん」
鬼太郎の妖怪センサーかっ。すんばらしいアイデアを思いついちゃったようで ある。

こうして、渡来の発案の下、工場の従業員及びご近所のみなさん総出でウニト ローダの宇宙船が修復されることとなった。

腕に覚えのある下町の職人たちが総力を結集した宇宙船はたちまち元通りに修復された
最後の仕上げに、工場主・鈴木徳助は満足げにうんうんとうなずく。
「ウニ公、どうだ?」 「うん、すばらしいですぅ」

キラキラリーンと輝くマイ母船に、ウニトローダも大喜びだ。作業員たちから も割れんばかりの拍手が巻き起こる。ワ―――――ッパチパチパチパチパチパチ パチ!!
「みなさんのおかげです」
なんて礼儀正しい宇宙人でしょう。感涙。そこへ坂本と楠木涼もやってきて、 見事復活した宇宙船に、眩しげに魅入った。だが、坂本に一抹の不安がよぎる。

「本当に実行するんですか? 逆噴射作戦」
機長っやめてくださいっ(すいませんねぇ、逆噴射と聞くとどーしても言わず にはいられないんです)。
「はい」
笑顔でうなずくウニトローダに、涼も不安げな顔を隠せない。
「本当にいいの? 二度と故郷には帰れなくなるのよ」
「うっ……」
一瞬言葉に詰まった。坂本も案ずる。
「それに、命の保障もない」
それでも、男なら戦うときが来る〜♪なのだ。ウニトローダはきっ…と強い瞳 を投げ返した。

「やります。これしか方法はないんです」
「ううう…、この子、恩返しするつもりなんだよ、命かけて」
徳さんの奥さんは思わず感極まった。

「ママさん、泣かないで。ボクは大丈夫」
「ウニトローダ、死なないで!」
子供たち、寿司屋の大将、人情味溢れる下町っ子の面々も、ウニトローダの心 意気に感動して泣きすがる。

「ちきしょー、極上のウニとトロ食わしとくんだったっ」
「泣くんじゃねーよ、縁起わりーな」
ふるふると涙をこらえる徳さん。実はあんたが一番つらいってのは、みんなよ ーくわかってるよ。もちろん、ウニトローダもね。

かくして渡来博士が発案した《サビコングそ〜れそれそれ作戦》が実行され た

佐野さん、あなたもですか……。

広場ではやぐらが組まれ、ドンドコドコドコドンドコドコドコ……太鼓が打ち 鳴らされていた……と思ったら、音響だったのね。坂本がボリューム調整しなが ら、サビコングの出現を待っていた。

しかし、本当にこんなんでサビコングが出てくるのかい、涼ちゃん?
「先生は自信満々だったけどね」
その先生、研究室でなんか怪しげな動きをしてますけど。
「遥か昔、火山は噴火し、大地は□◎■△〒○▲※▽●▼……」
しかも、あまりに熱く語るもんだから聞き取り不能。えっ、まだ語るんですか っ。それもカメラ目線で。

「誕生したばかりの原始生命体はその波動を体内に取り込み細胞分裂し進化を続 けた」
えーと、岡本太郎さんですか? まっまだ続くのかっ。
「太鼓の響きは命の鼓動だっ! そ〜れそれそれそれそれそれそれ……それ―― ――――――っ!!!!」
ゲージツはバクハツだっ! 終わった? 終わったか。

一方、工場前に待機していた鈴木家の坊やはびびったっ。工場内から錆がうに ょろうにょろと流れ出してきたのだ。

坊やは逃げる。逃げる。そして逃げるっ! 錆も坊やの後をぴったりマークし て追っかけてくるぞっ! 坊やは絶叫と共に死に物狂いで走る。
てやんでいっ!こちとら江戸っ子でいでいでいっ!
「■△◎▽●□▲※▼〒△■○▼▲▼○※■〒△◎▲※□〒▲!!!!」
坊ちゃん、なに叫んでるかわかりませんぜ。
「とおーちゃああああああああああああああんっっっ!!!」
おっ、やっと日本語が話せるようになったか。って坊やの背後には、サビウェ ーヴが怒涛のように迫ってくるぅっ! やっぱ逃げろっ!

「ウニトローダ、サビが動き出したぞ!」
それを見た徳さんは、ウニトローダにでかい携帯電話(古っ。時代設定がわか っちゃうね)で知らせると、坊やと共に軽トラに飛び乗った。
アクセル全開で下町を猛走する軽トラの後を、サビが濁流のように押し寄せて くる。
よしっ、そこの角で曲がれっ。っしゃーっ、かわしたっ。ってサビも曲がって きたよおおおん。猪じゃなかったか。どーすんだよおおおん。
「とーちゃん、はやくはやく。追いつかれちゃうよ!」
「てやんでぃ、あんなバケモノにつかまってたまるかいっ!」
サビの川で溺れ死んだなんて朝刊に載ったら、そりゃたまらんわ。

ズンドコドコドコズンドコドコドコ……はっはっはっ……広場では太鼓の音が ますます鳴り響いていた。

すると、そこへ徳さんと坊やを乗せた軽トラが、間一髪広場に辿り着いた。だ が、その背後には錆のビッグウエーーーーヴが……でっでかいっ、千葉のサーフ ァーも真っ青なほどに。

「まだまだ―――っ! 叩けー! 響けー! サビよ、目覚めるんだっ!」

坂本は張り叫びながら出力を最大限にアップした。スピーカーが激しく振動す る。坂本の熱い血潮もざわざわと騒ぎ出す。

「はっはっはっはっはっはっはっはっ……!」
はっはっはっ袴田くん……もはやノーコメント……。

と、そのときだ。錆の大波がどどどーーーんと跳んだかと思うと、集合体とな って一つの形を成した。坂本は音を止めた。

ザンザザーーーーーン。サビコング現るっ! でっでかいっ。ハワイのサーフ ァーもびっくり。う〜ん、でもなんかグビラに似てる……。錆びた鉄板を体中に 貼り付けたグビラってな感じ。

って、分析してる場合じゃないっ。パニックに陥り、逃げ惑う人々。とっとに かく、逃げるしかないだろ、ここはっ!

「来た。先生の推論は正しかったんだ」
そのとき、颯爽とヒーロー登場〜〜〜〜っ! よっ! 待ってましたっウニト ローダ!

「みんな、ありがとう」
下町の職人さんたちが丹精込めて修復してくれた宇宙船を自在に操り、我らが ヒーロー・ウニトローダがいくぜっ!
「ウニトローダ、気をつけて」
「頼んだぞ、ウニトローダ」
フレーフレー、ウニトローダ! がんばるキミの背中にWe'll be together♪  みんながついてるからな!

「サビコング、このウニ公が徳さんを、この町を守るんだ!」
くううう、泣かせるねぇ。みんなの声援をパワーに変えて、ウニ公がサビコン グに敢然と立ち向かう。

ぼひゅんぼひゅんと錆ビームを口から発射するサビコングの攻撃は容赦ないが 、それでもウニトローダは器用にかわしていく。

ウニトローダのかわした錆ビームが、ビルを直撃、破壊する。それを見ただけ でも、錆ビームの破壊力の凄まじさは想像に難くない。

「剛にいちゃん、ウニトローダはなぜ攻撃しないの?」
坊やが坂本に訊いた。
「サビコングの皮膚はとてつもなく硬いんだ。だから、ポイントはただひとつ… …」
坂本は、じっとサビコングを見据えた。よっ、男前っ。

下町の仲間たちが見守る中、ウニトローダはある一つのポイント、ただそれだ けを狙っていた。

「今だ―――――――――――――――っっっ!!!」  すぽんっ。 「食われた!」

サビコングの口めがけて突進していったかと思うと、ウニトローダは自らサビ コングの体内に飛び込んだのだ。

「これがウニトローダの狙い?」
「敵の心臓部めがけ、内側から宇宙船を逆噴射させ、破壊する」
涼に説明しながら、坂本はサビコングのデータモニターを見た。やにわに青ざ める。サビコングの体内はダメージを受けていない。
「ダメだ。宇宙船の噴射熱が足りなかったんだ」 「じゃあ?」 「作戦は失敗だ」

がががががーーーーーん。誰もが最悪の事態を想定したそのとき、ウニトロー ダから無線が入った。

「これから、ワープ用噴射爆発を使用します」
ななななんですと!? そんなことしたら、キミもただじゃすまないんだよ。
最悪、宇宙船もろとも爆発に巻き込まれてしまう。
「やめて、ウニトローダ!」
「ウニ公、死ぬんじゃねーぞ!」
お嬢ちゃんも徳さんも必死で止める。当たり前だよね。だって、大切な仲間じ ゃないか。

「大丈夫です。徳さんの造ってくれたフレーム、今の噴射でもびくともしません でした。宇宙一です。徳ちゃん」
「徳ちゃん…て……」 「ありがとう」 「ウニ公……」

ちゅどどどどーーーーーーん!!!! その瞬間、サビコングの体内が大爆発 を起こし、サビコングは粉々に吹っ飛んだ。

体験したこともないような波動がうわんうわんと大地を走る。その場にいた全 員がひっくり返った。

波動が止んだ。おそるおそる顔を上げると、サビコングは跡形もなく消えてい た。もうもうと立ち込める噴煙の中の光景に、一同思わず息を呑む。

そこには宇宙船の変わり果てた姿があった。

「ウニ公ーーーーっ! 大丈夫かっ!?」
取り乱し、ダッシュで宇宙船に駆け寄る徳さん。噴煙を払いのけ、熱さも忘れ 、無我夢中で宇宙船のふたを開ける。と、ウニ公が……

「ウニ公ーーーーー! ウニ公ーーーーーーーーーー!」
ウニ公は目を閉じていた。ピクリとも動かない。うそだろ…と徳さんはウニト ローダにしがみついた。そのときだ。

「徳ちゃん……」  ぱかっ。ウニトローダが目を開けた。
「ウニ公、生きてるよ」  にっこり微笑むウニトローダを、徳さんは顔をくしゃくしゃにしながら見つめ た。

「生きてる……」
生きている。ウニトローダは生きている。ここにこうして生きている。奇跡は 起きたのだ。
「おーーーい! 生きてるぞーーーー!」
振り向いた徳さんの歓声に、下町の仲間たちも諸手を上げて狂喜乱舞した。
生きてる、生きてる。かつてこれほどまでに生ということにこだわったことが あっただろうか。今はただ、生きていることが単純にうれしい。それも異星人の 生命が、だ。

「ありがとう、ウニ公。助かったよ、町工場」
みんなでウニトローダを胴上げだいっ! そ〜れ、わっしょいわっしょい!
異星の青空に、ウニトローダは高く高く舞っていた。この空はきっと、キミの 故郷にもつながっているんだよね。

ウニトローダ星人は町の人たちに一生懸命恩返しをしましたその後彼はどうなったのでしょう

ウニトローダは、鈴木家の子供たちと一緒に、江戸川(たぶん)の河川敷で自 転車の練習をしていた。

彼は下町で暮らし、下町で働くことになりました
宇宙人が地球で共に働く時代が来たのです
「ウニトローダくん、店からの就職祝いです」

寿司屋に集まった徳さんたちが祝福する中、大将から特大ウニトロ軍艦ケーキ をプレゼントされたウニトローダは、幸せいっぱいの笑顔で喜びを表した。

「ウニだ。トロだ。ウニトローダ――――――ッ!!」
<ウルトラQ〜dark fantasy〜【ウニトローダの恩返し】終>


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ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート【午前2時の誘惑】
深夜、一人でテレビショッピングを見ている女がいる。昨今、珍しくもない光景だ。

今夜はそんなあなたのような方が体験した不思議な物語です

女はおもむろに受話器を手に取り、慣れた風に注文をはじめた。このときばかりは活き活きとしている。
部屋には通販グッズが溢れていた。

翌朝、疲れた顔つきで、重たい体を引きずりながら通勤する大島浩子の姿があ った。グレーのスーツに、黒淵の眼鏡、ぼさぼさの頭…見るからに垢抜けない出 で立ちだ。

社内では言わずと知れた行き遅れのお局OL。そんな経理部主任・大島に、編 集部の坂本剛一もさすがに頭が上がらない。

「信じてくださいよ。スクープとるのに、毎日夜中まで走り回ってるんですから 。頼みます、大島主任」
この通りです、というふうに両手を合わせて拝む。だが、大島は取り付く島も ない。
「だめよ、そんなの。そうだ、これからは車に住んだら? 浮いた家賃でガソリ ン代も払えるでしょ」
哀願虚しく、あえなく却下。しっしっと、けんもほろろに追い払われてしまっ た。坂本は、渋々退散する。

そのとき――。
「ちょっと!」
大島の怒号に、坂本も含めた経理部全員が、一瞬にして総立ちになった。硬直 してびくびくする部員一同。
「ともみちゃん、いらっしゃい」
その言葉に、ともみ以外の社員はほーっと肩をなでおろし、席に着いた。坂本 もそそくさと経理部から逃げていった。

トイレにて――。経理部のOL3人組が化粧を直しながら、噂話をしている。 話のネタは、もっぱら先輩OL大島に尽きる。
「よく吠えるメス犬には、オス犬は寄りつかないって……」「昔、男がいたらし いよ」「ええーーーっ!?」
ジャーーーッ、バタン! OLたちの顔が青ざめる。個室から出てきたのは、 噂の主・大島だった。
「すいませんっ」
OLたちは、すたこらさっさと逃げた。けっ、と彼女らを睨みつける大島、一 人つぶやく。
「ったく。あんたたちに昔の男のこと、言われたくないっつーの」 だーよーねー。

大島が再び勤務に就くと、今度はイケメン社員の植田くんが彼女の元を訪れた 。手には山のような領収書を持っている。
「すいません。規則はわかってます、でも……」
爽やかな笑顔に、大島の目はハートと化した。
「しょうがないわね」
ハンコにはぁっはぁっとかわいく、かわいーーく、かわいーーーーーく息を吹 きかけ、押印する。おいおい、坂本の立場は……。
「いつもすいません」
植田くん、なぜか大島の背後のOLたちにピース、そしてにっこり。そうか、 そういうことだったのかっ。しかし気づかない大島、いいのか、それでっ。

お局OL・大島は、弁当も食べるときも寂しく独りぼっち。後方で、わいわい がやがや、楽しく談笑する女子社員と男子社員を尻目に、そっとコンパクトを開 く。

コンパクトに映すのは、愛しの植田くん。嗚呼、なんてステキなの。う〜ん、 うっとり。
「ねーねー、植田くん、今度バーベキュー行かな〜い?」
気安く植田を誘うOLたちに嫉妬の炎がめらめらめらめら。さらに、男子社員 の一言に、ピキピキと反応した。
「だめだめ。こいつの好み、ピチピチした若い子だから」
ぬわ〜にぃ〜と憤るかと思いきや、大島はセンチに溜め息をついた。
「若い子かぁ……」

「でもさ、あの大島女史に今さら寿退社が期待できると思うか?」  エレベーター内で、島田デスクが坂本に問いかける。ここでも、大島が話題に 上っていた。
「やっぱ無理っすかね」
「あれじゃーねー。でもなー、昔はけっこうかわいかったんだよなー。彼もいた し」
「なんすか、それ?」
遠い眼をして語る島田の話に、坂本は興味深々だ。島田も調子に乗って暴露す る。
「それがさー、いろいろあって、別れてからキツクなっちゃってさ。ツノなんか 出てきちゃって。鬼だよ、鬼。あははははははは」
「あはははははははははは」
男二人、下世話に笑い合う。そのとき、チーン。扉が開いた。
後ろにいた社員が出て行くと、その後から、ぬぅっと大島が出現した。坂本・島田の両人、フリ ーズ。んな、アホな……。真っ青。一瞬、心臓止まりましたね。

とぼとぼ……独り寂しく、大島は家路を辿っていた。
帰り道、立ち寄ったコンビニで見知らぬ男と肩がぶつかる。
「なめんなよ、おばさん」
おっおおおばさんんん? やり場のない憤りを抱えたまま部屋に帰り着くと、 姿見に映る自分に向かって吐き捨てた。
「どうせ負け犬ですよ」

通販で買った金魚運動器に足を乗せ、いつものようにテレビショッピングを観 る。
今日ご紹介するのは、“アフロディーテ・コンパクト”!!。これに意中の彼 を映せば、もう片想いからおさらばっっっ!ってこれ、大島が植田を映して盗み 見していたコンパクトじゃありませんか。
「ばっかみたい」
なわけねーだろ!とコンパクトを投げつけた。無惨にも鏡は粉々に割れてしま った。と、その拍子にテレビの画面が乱れた。
ベランダに出てBSアンテナを調整するが、画面はいっこうに直らない。半ば ヤケクソ気味にガツンとアンテナを殴った。すると――。
「コスモショッピーーーング!!!」
突如、テレビから陽気な声が流れた。
「んっ?」

「地球のみなさーん。今まで、みるみる若返るというキャッチの商品を買われた ことはございませんか? その効力に満足していますか? していない? それ はトーゼンでーす。なぜなら、それらはみな若く見せようとするだけの商品だか らでーす」
「あたりまえでしょ」
買ったこと、あるんですね、大島さん。胡散臭い男は売り込みを続ける。
「けれど、この商品はちがいまーす。生命の神秘を徹底的に解明し、そして開発 した、本当に若返る薬なのでーす」
くくくれっ! ……はっ、失礼致しました、つい我を忘れてしまいました。こ ほん、続きをどうぞ。
「その名も“ワカワカリン”!!」
「ワカワカリン?」
ワカワカリン?
「もう少し考えなさいよ」  まったくです。
「今回は、9800円にてご提供させていただきまーす! さ、あなたの人生が 変わりまーす!!」
んなわけねーだろっ。いーかげんに…って大島さん、ちょっと電話しちゃって るよ、おいおい。

キラキラキラキラキラキラ……。宇宙の彼方から、なにやら銀の丸い包みが、 大島宅の玄関前に飛んでやってきた。
「ウソ、もう来たの?」
目を丸くしながら、包みを開ける。
「あーあ、また、こんなつまらないものを……」
と、ぶつくさ言いながら、小瓶の中身をコップに注いだ。ポコポコ…なっなん か怪しい煙、それに色がっ色がぁっ!…青汁。まーずーそーに大島は、ごくごく と飲み干した。

 ――まずい。
やっぱり……。ところが、ところが――。
「なんなのよ。これも、これも」
服が合わないのだ。唯一ぴったりのサイズは、若かりし頃着ていた、花柄のフ レアースカート。しかも、7号っ!

「いいか、これで」 いやもう、ぜんぜんオッケーっす。うらやますぃー。

いったい自分になにが起こったのか。大島は通勤途中でも、まだ気づいてなか った。何気なく見たビルのウィンドウに、ふと足を止める。
「なに、見てんのよ」
って、ウィンドウに映ってるの、大島さん、あーたですけど……。
「えっ? あたしだ! 眼鏡ないのに、よく見える」
痩せてきれいになって、髪もストレートのさらさら、顔も肌艶がいい。ななな んと、ワカワカリンを飲んだ大島は、ほほほほんとに若返ってしまったのだった っ! 
「やった!」

若返って美しく甦った今日の大島は、仕事でも一味違っていた。
「あなたね、こんなの通ると思ってるわけ?」
そっそれが、通っちゃうんです、この日は。笑顔もキラッキラッ、輝いてます 。
経費の申請書を通してもらった男子社員は、わたわたと坂本に駆け寄った。
「坂本っ、見たかよ、大島女史」
「やめてくれよ、大島女史の話は」
露骨に嫌な顔をする坂本を無理矢理引っ張って、男子社員は経理部のドアから 、大島を覗き見る。彼女の変わり果てた…じゃなく、美しく可憐な姿に坂本も度 肝を抜かれた。
「あれが?」

大島は街を歩いているだけで、男どもの視線を釘付けしした。ナンパされまく りの上、スカウトまで寄ってきた。
 ――本当、私の運命は変わった!
PCにも社内メールを利用したラブメールがひっきりなしに送られてくる。そ の中に、愛しの植田く〜んからのメールもあったっ! やったっ!
内容は、みんなに内緒で屋上に来てください、とのこと。
ゴクッ……。思わず生唾を呑み込む。このとき大島は天にも昇る心地でいた。
憧れの植田くんからメールをもらった大島浩子は、いそいそと彼の待つ屋上へ 出かけていった。

 ――ホントにいるぅぅぅ! よしっ。
予告どおり屋上に姿を現した植田に歓喜。そして、気合を入れ直し、1オクタ ーブカン高い声で登場。
「植田くん」
振り向いた植田の笑顔は、大島をめろめろにした。
「わざわざすいません。はずかしくて、人目があると言えないんで」
と言いながら、植田は白い封筒を差し出した。
 ――なになに、ラブレター?
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……大島の鼓動はMAXに達した 。

が、しかし――。封筒から出てきたのは、なんと領収書の山だった。それも半 端な量ではない。
「すいません。出張清算、忘れてたんで。こんなのはずかしくて、経理に持って けなかったんです」
 ――へっ?
大島、あ然。言葉とは裏腹に、少しも悪びれる様子もなく植田は膨大な数の領 収書を手渡した。
「じゃ、そーゆーことで、よろしくお願いします」
すっきりした顔で、植田はスタスタと行ってしまった。大島は、一人ぽつねん と屋上に取り残される。

 ――そんなぁ〜〜〜〜。
 そりゃないぜ、せにょりーた。
「なによ、この領収書の山。しかも〆日過ぎてるし。遊園地? 誰と行ったの」  ブツクサ文句をたれながら、階段を降りてくる大島。ちょうどそのとき下階か ら、植田と男子社員の会話が聞こえてきた。思わず身を隠し、聞き耳を立てる。
「植田っ! 合コン。女子大生と」
「すいません。ちょっと……」
「なんで? ピチピチの若い子来るぞー」
「はぁ……」
どうやら植田は気乗りしない様子だ。しかし、それを聞いた大島は、怒りが沸 々と湧きあがる。
「なによ、若い子若い子って。こうなったら、絶対振り向かせてやる」
俄然、やる気が湧いてきた。ファイトッ、大島女史っ! なんか、他人事のよ うな気がしないのは気のせい?
大島は、胡散臭い宇宙の通販で買った若返りの妙薬“ワカワカリン”をもう一 本、ごきゅごきゅと一気に飲み干した。
するとどうでしょう。キラキラキラキラキラ……。これで、ばっちり、のはず ――。
翌朝、出勤すると、どうも社員たちの様子がおかしい。
「あんた、なにしてんの?」
あろうことかお局さまの大島に面と向かって、あああんた?あんたと言いまし た?ともみちゃん。ふるふると怒りに震える大島にかまわず、ともみはさらに言 った。

「ここはあんたのような子が来るところじゃないの。おうちに帰りなさい」  なんですと? しかし反撃する間もなく、大島はガードマンに連れ出される。
「おじょうちゃん、警察呼ぶよ。はい、さよおなら」
とうとう外に追い出されてしまった。
「なにがおじょうちゃんよ」
大の年増、もとい大人のおねいさんをつかまえて、おじょうちゃん呼ばわりは ないでしょう。憮然と歩き出した大島を、ビルのウィンドウが捉える。
「……?」
そのとき、何気なく見た自分の姿に、びっくり仰天した。
「これが私? うっそーーーーーーっっっ!!」
そーなんです。大島さん、ワカワカリンの飲みすぎで、中学生にまで若返っち ゃったんですっっっ! おそるべし、ワカワカリン。ってか、若返りすぎだって の。

大島は放心状態で、夜の街頭を彷徨っていた。先日のスカウトが、また声をか けてくる。
 ――誰でもいいんだ……
あまりのショックに、いやあああと逃げる。顔も幼ければ、体も中学生サイズ になってしまった。走った拍子に合わないパンプスが脱げ、転ぶ。

「いたたたたた……。なんなのよー」
泣きたいくらい情けなくなる。そのとき、大島へとやさしい手が差しのべられ た。
「大丈夫?」
やさしくて大きな手の持ち主を見上げると、そこにはなああああんと愛しの植 田くんが立ってるじゃありませんかっ!
「植田くん?」
大島は感極まり、うえええええええんと植田の胸に飛び込んだ。植田は、やさ しくやさしく大島の頭を撫でる。まぁ、それが大島とは知らずにだろうが。

それでも、大島はうれしかった。ずっと想い焦がれてきた憧れの人・植田が、 目の前にいるのだ。しかも、パフェやらケーキやらをおごってくれる。中学生だ からね。見た目は。それにしても、随分やさしい男だ。

 ――やっぱり植田くんは、私の想い続けてきたとおりの人だわ
植田のお陰ですっかり立ち直った大島は、喫茶店を出たところで彼に言った。
「ごちそうさまでした。なんてお礼を」
「あははっ。お礼かぁ。そうだなぁ、終電もなくなっちゃったことだし。……い こっか……」
「いこっか…って?」
突如、植田の笑顔が不気味に歪んだ。
「へへへっ、わかってるくせに」
薄嗤いを浮かべ、植田は大島の手を握り締めた。
 ――えー、うそー、まじー!?
大島はなにやら厭な悪寒、いや予感が走った。咄嗟にダッシュで逃げる。
「へへへっ、ちょっと待てよ!」
気色悪い嗤いを浮かべて、植田が追いかけてくる。ああっ、まさか憧れの植田 くん、若い子が好みって…こーゆーことだったのねええええっ! ショックショ ック大ショックの大島は死に物狂いで逃げた。

ぜえっぜえっと逃げ込んだ公園で、大島は一人の男とぶつかった。見るとそれ は、浮浪者を取材している最中の坂本剛一だった。
「はっ、助けてっ!」
大島は坂本の背中に隠れる。そのとき、大島を追って植田も公園に駆け込んで きた。
「お、おい、植田じゃねーか」
坂本が怪訝な顔で声をかける。
「あ、あれ?」
「俺、取材だよ」
「おおおれ、帰んなきゃ」
社内で本性をばらされては一大事と、植田はとんずらこいた。
「は? なんだ、あいつ?」
きょとんとする坂本に大島が礼を言う。
「ありがとう、坂本くん」
「坂本くん? ちょっ……」

立ち去る大島を追いかけようと坂本も歩き出したが、背後からガシッ、浮浪者 に煙草をねだられた。その間に、大島の姿は消えていた。

傷心を抱えた大島は、再び一人、夜の街を彷徨っていた。
「どうしよう……」
中学生のまま、明日からどうやって生活していけばいいのか。そのとき、憔悴 しきった彼女の目に、とある人物が飛び込んできた。そう、コスモテレビショッ ピングの司会者だ。

「あいつだ」
大島はどすどすと司会者に走り寄った。
「ちょっと、あんた、だましたわね!」
憤怒の形相で司会者をぐいと引っ張った。
「ちょちょっ、よしなさいって」
突然のことに驚く司会者に、大島は詰め寄る。
「どうしてくれんのよ!」
「なにか、当社の商品に不都合ございました?」
「見てわかんないの?」
だが、司会者は不思議そうに答えるばかりだ。
「あの…若返るということは生命年齢を逆行させることです」
「うるさい、早く元に戻して」
すっかり怒り狂った大島は、司会者の首を締め上げる。
「わ、わかりました。では、当社の商品“モトニモドーレ”を、前回と同じ98 00円にてご提供させていただきまーす!」
この言葉に、さらにぶちきれた。
「金、取るわけーーーーー!」
「いや、しかし、私どもに不手際は……あ゛ーーーーーーーーっっっ!!!」
大島はさらにさらに、司会者の首をぎううううと締め上げた。
「このやろーーーーー!」
「わわわかりました。はいっ。お支払いのほうは前回と同じ振込みでよろしいで すか」
「まだ、言うのーーーーーーーっっっ!?」  怒りにまかせた大島がぎりぎりと司会者の首を締め上げると司会者の足が宙に 浮いた。
「はいっ、はいはいはいっ!」
たまらず司会者はドリンクを一本大島に渡した。そして、大島が一瞬怯んだ隙 に、そのまま宇宙へと逃げ去ってしまった。命からがら大気圏外へと逃げおおせ た司会者は一人つぶやく。

「製品は完璧なのにクレームがつくなんて。この星の生き物は、いったい何考え てるんだ!」
そりゃ、ごもっとも。だが大島には、そんな宇宙人の独り言など届くはずもな い。
今の彼女はとにかく、“モトニモドーレ”を飲んで、元に戻ることしか頭にな いのだ。ごきゅごきゅ…キラキラキラ……。

「戻ったー!」
安堵の表情で大島、にっこり。よかったね。かわいいよ、大島さん。

翌日、経理部・大島主任に哀願する坂本の姿があった。
「本当に深夜まで取材してるんです。だからせめて、このときのハンバーガー代 、お願いしますっ!」
深く深く頭を下げる坂本に、大島はにっこり微笑む。
「遅くまでご苦労さま」
ハンバーガーの領収書を受け取ったっ。信じらんない…といった顔で坂本は一 礼する。
「あ、ありがとうございますっ!」
首をかしげながら立ち去る坂本とすれ違いざまに、今度は植田が大島のもとに やってきた。

「大島さん、接待交際費なんですけど」
キッ。大島の顔つきが突如険しくなった。
「チョコレートパフェにプーリーンー? この取引先の方、変わってるわね」  そりゃそーでしょ。中学生に変身しちゃった大島さん、あなたが食べたんだか ら。
「えー、まーそれはそのー……」
冷や汗だらだらの植田の目の前で、大島は領収書をびりびりと破り棄てた。
「えっ?」
目ン玉飛び出そうになる植田くんに向かって、さらに留めの一言を投げつける 。
「それから、この間のこれ、もう締め切っちゃったからダメみたい。ごめんなさ いね」

つんっ、と領収書の山をつき返す。
「え、そりゃないよ。うそーーーーーー」
とほほほほほほと、植田くん、あえなく散る。

そう、いくらなんでも浩子さんは懲りたと思いましたが……
すっかり若返った大島は、これまた通販で買ったエアロバイクで汗を流してい た。
「あー、体が軽い♪」

あーあー、けど笑い話ではありませんよ
今あなたが見ているテレビにも、宇宙人からの怪しいテレビショッピングが 映し出されるかもしれません

そんなときは、どうかご用心、ご用心……

「地球のみなさーん、さあ、今夜もあなたに最高の商品をお届けしま〜〜〜〜〜 〜〜す!」
大島のテレビには、相も変わらず胡散臭いコスモテレビショッピングが映し出 されていた。
トゥルルル…トゥルルル……。
「もしもし、地球の大島ですけども。はいっ、ドコデモイケール、ノンビリスゴ セールをひとつ」

懲りてないわけね。ま、そこが彼女のいいところでもあるのかもしれない。 <ウルトラQ〜dark fantasy〜【午前2時の誘惑】終>


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ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート【送り火】
ウルトラQ〜dark fantasy〜【送り火】《前》 今あなたが見ている人は 100年の後には誰一人としてこの世にいません
そう それほど遠くない未来 誰もが自分の死を経験するのです
もちろん あなたも
そのときあなたは 誰に側にいてほしいですか
これは 人を死へといざなう不思議な送り火の物語……

夜も更けた病院で巡回中の看護士が、一人の患者の異変に気づいた。慌ててコ ールする。が、ときすでに遅し。患者は安らかな死に顔を残し、息を引き取って いた。

そのとき彼女は、病室の隅に黒い人影を見た。
「きゃーーーーーー!」
桜吹雪の舞う夜だった。

「死を呼ぶ黒い頭巾の男……。これでもう4回目だ」
渡来教授の研究室で新聞を広げながら、楠木涼が呟く。
「4件とも患者は原因不明の衰弱死。どう考えても異常だね」
渡来教授はティーとケーキを紳士的に差し出した。
病院内での患者の不審死という一連の事件が、最近マスコミを賑わしている。 にもかかわらず、関係者には異様な緘口令が布かれているという。変死した患者 の詳細も一切シャットアウトだ。

情報が遮断されれば、自ずと無責任な噂が飛び交う。事件のたびに目撃される 黒頭巾の男もまたしかり。都市伝説と化していた。

一方、病院を取材に来ていた坂本剛一は、馴染みの刑事に邪険にされていた。
「警察の捜査は公開できない」
それでも、記者魂で食い下がる。
「ねぇ、玉木さん、ねぇ」
「馴れ馴れしいんだよ」
坂本を無下に振り払うと、玉木刑事は車に乗り込んでしまった。そこへ、病院 内から白衣の年配男性が出てきたことに坂本が気づく。

「あっ、大森検視官!」
「なんだ、おまえ来てたのか」
「実はですね……」
と、そこで一本の腕が間に割って入った。
「はい、そこまで」
玉木刑事に阻まれ、大森検視官より情報は得られずじまいだった。

オープンカフェテラスで、坂本は涼に愚痴る。
「なーんか、ガード固いんだよねー」
だが、涼はニヤニヤするばかりだ。訝しむ坂本に、涼はノートパソコンを開い て見せた。

「見てこれ。ここに最初に黒い頭巾の男が現れた」
ディスプレィに表示された地図に指を乗せ、一連の事件現場を辿る。
「ここ、ここ、そんでここ……。私のカンじゃ、次に黒い頭巾の男が現れるのは 、聖ペテロ3世病院! 今夜からここに張り込む。でもって巻頭スクープ間違い なしっ!」

拳をぐぐぐっと突き上げ、涼は一人盛り上がる。坂本も呼応するかのように、 涼を指差しげらげらと大笑いした。

「あははははは! 人生なめてるーーーーーっ!」
「……」

坂本に馬鹿にされた涼は、その晩、憮然としながら車で聖ペテロ3世病院に向 かった。病院の敷地内に入り、玄関先まで目前という、そのときである。

突如、車の前に一人の青年がふらふらと飛び出してきた。大慌てでブレーキを 踏むと同時に、青年がばたっと倒れ込んだ。

「大丈夫ですか!? しっかり!」
顔面蒼白で車を飛び降り、涼が叫ぶ。「救急車!」って、ここ病院だった。

処置室にて青年は目覚めた。むっくりと起き上がる。医師が説明するには、彼 は車にぶつかる寸前、空腹で倒れたのだという。

事実を知り、憤慨した涼は病院を後にした。
「だから、ごめんって」
涼を追いかけ、青年が謝る。涼はくるりと振り向いた。
「名前は?」
「俺、ヒタキ」

翌日、坂本が涼を冷やかしに、彼女の部屋を訪ねる。チャイムを鳴らすと、出 てきたのはヒタキだった。見知らぬ青年が涼の部屋にいることに、坂本は唖然と した。

「帰る家がないって、それで泊めてやったの?」
呆れ気味に坂本が涼に訊く。ヒタキは、半ば路上生活で放浪しているという。
坂本は、今度はヒタキに問いかけた。
「ヒタキだっけ? おまえ、どこの生まれだ?」
「わかんね。俺、ちっこいころのこと、憶えてねーの、さっぱり」
よほど話したくないのか。坂本と涼は深い溜め息をついた。
「俺、赤目待ってんだ」
屈託なく話すヒタキに、涼は訊き返す。
「赤目?」
「うん。俺の仲間。この街で落ち合うことになってんだ」
まったく目的がないわけでもないようだ。それを聞き、涼はヒタキに合鍵を渡 すことを決意した。 

涼は、最初の事件があった病院へと出向いた。だが、固く口止めされているの か、看護士からはなんの情報も得られなかった。

すると、一人取り残された涼を、ある看護士が呼び止めた。
「あのぅ、うちの病院が最初じゃないかもしれません」
眉をひそめ、看護士を見つめ返す。彼女はさらに言った。
「警察では、亡くなられた方々の死に顔について、なにかおっしゃっていません でしたか?」
「死に顔?」
だが、それ以上聞くことはできなかった。その看護士が婦長に呼び出されてし まったからだ。

あきらめて帰ろうとする涼を、木陰から見つめる赤目の男がいた。ふと振り向 いた涼の視界には、しかし彼の姿はなかった。

その頃、涼の部屋では、ヒタキがPCに向かい、薄笑いを浮かべていた。
坂本は、警察の目を盗み、大森検視官と定食屋で落ち合った。
「変死した4人の患者さん、ひょっとして同じ病気だったんじゃないの?」
坂本の推測に、大森は首を横に振る。違うらしい。共通して言えるのは、4人 とも余命幾ばくもない末期患者だったということだ。

「それが、みんな仏さんのような穏やかな死に顔でな。この道長いけんど、あん な死に顔見たの初めてだ」
ただ、検視結果から医学的には、全員衰弱死だ。実は、坂本にはずっと気にな っていたことがある。

「衰弱死ってことは、警察は、頭巾男を殺しでは追えないってこと?」
だが、坂本の問いには答えず、大森は席を立った。
「絶対、書かないからさ。警察は頭巾男を、なんで追ってたんだ?」
「今のところ、窃盗容疑だ」
それきり固く口を閉ざしたまま、大森は店を出た。
「変死体から、なにが失くなってたんだ?」
謎は深まるばかりだった。
涼が「ただいまー」と部屋のドアを開けると、ヒタキがいない。電源が入りっ ぱなしのPCを覗き込む。そこには「Mother Land」という虹色の文字が揺れてい た。

「お、帰ったんだ」
その声に振り向くと、ヒタキが立っていた。
「ね、飯食いに行こ。俺、おごるから」
「は?」
「俺にも蓄えがあるわけよ。見ろ。俺が地味な生業で稼いだ金」
そう言いながらヒタキは、じゃらじゃらと音を鳴らし、黒い巾着から小銭を取 り出して見せた。

夜の公園で2人、ハンバーガーを美味そうにほおばる。
「ねぇ、ヒタキ」
「憶えてないよ」
間髪入れず、ヒタキが答える。涼は気を取り直し、再び問いかけた。
「じゃ、この街には、どうやって辿り着いた?」
「ずっと旅してきた。たまたま知り合ったじいさんと、数え切れないほどたくさ んの街を回った」
遠い瞳でヒタキは語る。その「じいさん」は、大道芸人だった。
「じいさん、上手かったから客が集まったんだ。そのじいさんはね、元は男爵の 家の生まれでね、生まれた家にはこ〜んな立派な八の字ヒゲの執事が……」
ジェスチャーを織り交ぜ、あたかも見てきたかのように話すヒタキに、涼はこ ろころと笑い転げた。

「俺の唯一の才能だからね」
ヒタキは不意に立ち上がり、背を向けた。その背中がなぜか寂しげに見えたの は、気のせいだろうか。
「で、そのクラウンのじいさん、どうなったの?」
まだ止まない笑いをこらえ、涼が訊く。
「死んだよ。俺の初仕事。それで一人前ってわけ」
「え?」
涼にはヒタキの言っている意味がわからなかった。だが、訊ねる間もなく携帯 が鳴る。坂本からだ。至急、渡来教授の研究室に来てくれとのことだった。

涼が顔をそろえたところで、渡来教授は一巻の巻物を広げて見せた。そこには 、王朝時代の絵巻が繰り広げられていた。 渡来教授の講釈が始まる。

「送り火だ。送り火は王朝の昔、死に逝く人の魂を安らかに他界に送り出す役割 を果たしたと言われる一族だ」
だが、人を死なせるという超常力がゆえに、人々の恐怖の的ともなってしまっ た。絵巻には、黒い頭巾の者が捕らえられ、処刑される最期が描かれている。

「(病院の)黒い頭巾の男は、送り火の末裔なんじゃ……」
「ああ。送り火は、その手で触れる者を死なせることができる。出生については 、どんな責苦にあっても言わなかったらしい。言いたくても言えなかったか…… 」
「言いたくても?」
そういえば、ヒタキも――。

「一説には、彼らは、自分がどこで生まれたのか、幼年期の記憶が欠落していた という説もあってね。まぁ、異能の人間には、なにか欠落したものがあるという のは、一種の定説だが」
涼の脳裏に、ヒタキの言葉がよぎる。

 ――俺のは思い出さないやつなの、絶対  にわかに涼が、研究室を飛び出した。


ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート【送り火】
★ ウルトラQ〜dark fantasy〜【送り火】《後》

楠木涼は再び、最初に事件が起きたという病院に向かった。この病院が最初で はないかもしれないと教えてくれた看護士に、もう一度話を聞くためだ。もしや 以前にも同じように、穏やかな死に顔で逝った患者がいるのではないか、そのこ とを確かめたかった。

「あの事件の一週間くらい前、私、夜勤明けで……」
その朝、看護士が裏口から出ようとすると、出口脇のベンチで年老いたクラウ ンが一人、横たわっていたという。

「本当に、まるで眠っているような死に顔でした」
おそらく、病院ならばなんとかしてくれるだろうと、誰かが運んできたのでは ないか、と看護士は言った。

ヒタキの言葉を思い出す。
 ――死んだよ。俺の初仕事。それで一人前ってわけ。
あれは確か、クラウンのことを言っていた。嫌な予感が走る。

そのとき、背後から肩をポンと叩かれた。玉木刑事だ。
「おまえねー、刑事でもないのに、事件のあった病院ばっかうろうろすんなよ」
「警察は、黒い頭巾の男を窃盗容疑で追っているのよね? 失くなっているのは 、患者さんたちの持っていた小銭なんじゃないの? 売店や公衆電話の」
「おまえ、なんでそれを知ってるんだ?」
玉木の顔色が変わった。疑念が確信へと移った涼は、その場から駆け出した。

部屋に戻り、ヒタキの数少ない手荷物をあさる。そこで震撼した。彼の手荷物 の中から、黒頭巾の覆面を見つけてしまったのだ。

PCには「Mother Land」の文字が不気味に揺れている。
「それ使うんだ。顔見られるとやばいから」
部屋の片隅から現れたのはヒタキだった。この黒頭巾は、渡来教授から見せら れた絵巻に描かれていたものに酷似している。

「あんた……送り火なの?」
「そうだよ」
「ヒタキが…4人、いや5人とも?」
涼は恐怖の眼差しでヒタキの瞳の奥を見つめた。まさか、この青年が、あの― ―。

「俺は、そいつのマザーランドまで一緒に飛んでやるだけだ」
「マザーランド?」
「ああ、俺が名前付けたんだ。Mother Landって。涼の中にだって、マザーランド はあるよ」
そう言うと、ヒタキはおもむろにポケットから手を出し、その手をゆっくりと 涼に差し向けた。

渡来教授の講釈がよぎる。
 ――伝承どおりなら、送り火はその手で触れる者を死なせることができる。
一歩、また一歩とヒタキが近づいてきた。その手をかざすようにして。

涼は怯え、歩調をあわせるように後方にじりじりと下がっていった。そのとき だ。バタン! 坂本が息切らし、部屋に駆け込んできた。

「おい、涼! おまえ、玉木になにしゃべったんだ? 警官、この部屋の向かっ てるぞ」
気づくと、ヒタキがいない。窓の外では、パトカーのサイレンが鳴り響いてい る。

「ヒタキ? ヒタキを止めなきゃ。ヒタキは自分でなにをしているのかわかって ない!」

部屋を飛び出した涼は、その足で次の現場となるはずの病院に向かった。真夜 中の病棟にて、今しがた息を引き取った患者を発見する。おそるおそる、病室に 足を踏み入れる。そこには、やはりというべきか、患者の小銭を漁るヒタキの姿 があった。

「これが俺の生業」
悪びれた様子もなく、ヒタキが告げる。そこへ坂本も駆けつけた。ヒタキが逃 げ出す。その後を、涼が追った。

別館に逃げ込み、階段を駆け上がるヒタキに涼が叫ぶ。
「ヒタキ、待って!」
その声に、ヒタキはピタリと立ち止まった。そして振り返り、涼へ静かに語り かけた。

「俺、自分を必要としている人間がわかるんだ」
「え?」
「だから、そいつの望むときに行って、そいつの身体に触れて、命の火が少しず つ消えるのを見届けてやる。その魂が、マザーランドを通って消えていくまで」
ヒタキの、いや送り火の気配に気づいた末期患者の老婆は、そっと目を開けた 。

マザーランドは、人間がこの世に生まれて、一番最初のやさしい記憶があると ころだ。どんな人間も死ぬときは皆、自分のマザーランドを通って消えていくの だという。

そして、この老婆もそのときまさに、自分のマザーランドを辿ろうとしていた 。ヒタキに手をかざされ、老婆が目を閉じる。その手から発せられた光が、老婆 をやさしく包み込んだ。

老婆のマザーランドには、色とりどりの花畑に囲まれた桜並木があった。桜が 穏やかに散りゆく中、ヒタキは老婆の手を取り、いざなう。

「あのばあさんのマザーランドには、今はない生まれた家に続く小道や、よく遊 んだ故郷の原っぱや、夕方の台所で晩御飯の支度をする母親がいた。一世紀近く を生きたばあさんだって、昨日のことは憶えてなくても、80年前、母親が着てい た着物の模様ははっきりと憶えてるんだ」

 ――おかあさん……
老婆は懐かしげに目を細め、童女のような笑顔で母を呼んだ。

「俺はね、これまで自分が送った人間のマザーランドを、どの風景も一つ残らず 憶えてる」
「ヒタキ、おまえのマザーランドは?」
たまらず坂本が問う。ヒタキは寂しげにうつむいた。坂本は今一度訊く。
「送り火はみんなそうなのか? 生まれた家も、親のことも」
「送り火は……」
ためらいがちにヒタキが口を開く。

「自分のマザーランドと引き換えに、最初の人間を送る」
ヒタキは大好きだったクラウンを送るために、自分のマザーランドを犠牲にし たというのか。

「なんで……? 送り火はそうまでして……」
胸が締め付けられるような逸話に、涼は思わず疑問を口にしていた。
「言ったろ。わかるんだって、自分を必要としてる人間が。だから……」  そこで、ヒタキの声が遮られた。パトカーが到着したようだ。咄嗟に坂本は扉 を押さえた。

「さっさと行け!」
坂本を残し、ヒタキと涼は駆け出した。程なく行くと、屋外へ続く階段下に山 積みにされた荷物のせいで、行く手を阻まれてしまった。手摺脇からヒタキがよ じ登る。ここでつかまるわけにはいかない。自分を必要とする人間は、まだこの 世にはいくらでもいるのだ。

「あんたが死ぬときは、俺が一緒に飛んでやる。あんたのマザーランドまで」
強健な意思で、ヒタキは涼にその手を差し出した。それは、死へといざなう手 ではない。生へと導く手だ。

「あたしは、死んでも死なない」
涼も強い瞳を投げ返し、その手をがっしり掴んだ。生命の光を求めて、2人は 階段を一息に駆け上がった。

最後の扉を飛び出すと、すでに夜は明け、朝日が戸外を照らしていた。
そこへ、タイミングよく一台のトラックがきゅっと止まった。運転席の男がサ ングラスを外す。その男は、片目に赤い瞳孔を持っていた。

「赤目……?」
これが、ヒタキがこの街で落ち合うことになっていたという「赤目」か。目を 丸くする涼に、ヒタキが微笑みかける。

「ありがと」
ヒタキが乗り込むと、そのままトラックは走り去っていった。直後、警察が追 いつく。涼は咄嗟の機転で、その場にしゃがみ込んだ。

「おい、犯人どこだ!?」
「だめ、逃げられた、あっち」
涼は、トラックが走り去った方向とは真逆を指し示した。警察の面々はそれを 真に受け、涼の指差した方角へと走っていった。そこへ坂本もようよう辿り着く 。

「おい、ヒタキは?」
にやにやと涼が警察の行方と反対を指差す。坂本はほーっと安堵の息を漏らし 、涼の頭をくしゃくしゃと撫でた。

涼がすっくと立ち上がる。坂本も立ち上がり、消え去ったトラックの行く手を 見つめた。

その頃、ヒタキも後ろを振り返っていた。そして、切ない想いを振り切るかの ように、前を向く。強く、たくましく。

送り火の旅は果てなく続く。この世に、自分を必要としている人間があるかぎ り……。

いつか
あなたの命の火が消える時
あなたは
誰に側にいてほしいですか

<ウルトラQ〜dark fantasy〜【送り火】終>

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