ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート

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ウルトラQ〜dark fantasy〜番組レポート 【李里依とリリー】
ある晩のことだ。
一人の会社員が車で帰途に着いていた。ダッシュボードの上に置かれたサルの ぬいぐるみが、愛娘からのメッセージを大事そうに抱えている。

 ――おとうさん 運転 気をつけてね――
思わず顔が緩む。そのとき、聞き覚えのない少女の笑い声が、どこからともな く聞こえてきた。運転中の会社員が事故を起こしたのは、その直後のことだ。

坂本剛一は、カフェのテーブルの上でノートパソコンを開き、数件の交通事故 現場を検索していた。そこへ楠木涼がやってくる。坂本は言った。

「最近この街の周辺でさ、些細なものが盗まれる事件が相次いでるんだと」 「ふーん」 「で、この事故に遭った人も被害に遭ってるらしいんだよ。それで取材に行こう と思ってたわけ」

些細なものが盗まれる――例えば、この事故現場でいうと……。

マンションの一室。ベランダにたたずむ少女が一人、外を見下ろしている。小 さな腕の中には、サルのぬいぐるみが大事そうに抱えられていた。

今夜ご紹介するのは 誰にとっても他人事ではないお話です もし あなたのそばに…… いや これはすべてを語り終えたときに あらためてお話ししましょう

坂本と涼は、交通事故を起こしたという会社員を訪ねるが、取材に応じてくれ ないどころか、憤慨した様子で追い返されてしまった。

「ま、とーぜんか」 だが、手ぶらで帰るような坂本ではない。彼は次なる被害者の元へと向かった。

「なにせ最近、物騒じゃないですか」 窃盗被害に遭ったという家の主婦は、気さくに答えてくれた。 「だから、警察にも届けたんですよ。こんなちっちゃなうさぎのぬいぐるみなん ですけどね」

そう話す主婦の後ろで、娘が縁側に足を投げ出し本を読んでいる。ぬいぐるみ の持ち主らしい。主婦は娘が夢でも見たのではないか、と前置きした上で告げた 。

「幽霊が持ってったって」  すると、縁側の娘が不意に口を挟んだ。 「白い女の子だったよ」

次に向かったのは洋品店だった。店員の話に聞き入る。 「そこをね、すーっと通って壁の中へ消えてしまったんですよ。気味悪かったわ ー」

坂本と涼は店内を見回した。洋服のほかに、アクセサリーなども陳列してある 。

「ものが失くなったりってことはなかったですか?」 「それはわからないですね」 店員は首をかしげた。小物は、盗まれてもすぐには気づきにくいという。

結局、これといった収穫を得られず、2人はとぼとぼ歩いていた。 「白い女の子か……」 怪訝に呟く坂本の横で、涼が苛ついたように言う。

「とってもおかしなことが起こってるかもしれないってのに」 「明確な形にしないと、事態が把握できないのさ。それをやるのが俺たちの仕事 だろ」坂本はなだめるように諭したが、涼はどこか納得がいかない。 「けど……」

たまたま通りがかったマンション前の道で、涼は何気なく顔を上げた。そこで 、ベランダに一人寂しげにたたずむ白いワンピース姿の小さな女の子に気づく。 職業柄、反射的にシャッターを切っていた。

「ただいまー」 買い物から帰った母親が、内側からチェーンをかけた。 「李里依、すぐにご飯作るからね」 返事がない。

「李里依?」 奥を見ると、李里依という名の娘はベランダに立っていた。母親が慌てて李里 依を部屋の中に入れる。いや、隠したといったほうがいいだろうか。 「顔を出したら駄目だって言ったでしょ。何度言ったらわかるの」李里依は無言で母を見つめる。母はさらに続けた。 「李里依のことが外の人にわかったら、お母さんともいられなくなっちゃうのよ 。わかってるでしょ、李里依」 だが、李里依は黙って母を見つめるばかりだった。

夜更け、自宅マンションで、母は李里依の寝顔をぼんやりと眺めていた。 同時刻のことである。高層ビル内を巡回中の警備員が、不気味な少女の笑い声 を聞いた。

そのとき、熟睡していたはずの李里依の目が開いた。奇怪なことに瞬きひとつ せず、まったく動かない。母が異変に気づき、駆け寄った。 「李里依……」

やはり、そのときだった。警備員の目の前を、白い影がすーっと横切った。仰 天して懐中電灯を落とす。顔面蒼白で薄暗い廊下を見回すが、人らしきものはな い。

気のせいかと思い直し、落とした懐中電灯を拾い上げようと腰をかがめ、手を 伸ばしたその瞬間だ。 「ひっ!」 懐中電灯に伸ばした手を、ガッと誰かに掴まれた。心臓が止まる思いだった。

警備室で、坂本と涼が話を訊いていた。 「失くなってたのは、懐中電灯だけだったんですね?」 坂本が訊く。 「ええ」 気づいたときには、警備室で同僚に介抱されていたという。 「それで、その白い女の子なんですが……」防犯カメラが捕らえた映像をチェックする。

「たまにあるんですよ、こういこと」だが、怪奇現象などが噂になるとビルのオーナーに迷惑がかかるということで 、噂が広まる前にもみ消されるのだそうだ。  警備員の説明を聞きながら、ビデオを見ていた涼は、懐中電灯を拾おうとする 警備員の手首を掴んだ少女の後姿にはっとした。

「これって、この子じゃなかったですか?」マンションのベランダから寂しげに外を見下ろしていた少女によく似ている。 涼は、自分で撮影した少女の写真を取り出して見せた。 「似てるなぁ。そうかもしれませんね」警備員は、曖昧に頷いた。

涼は、少女が立っていたベランダの部屋を訪ねた。表札には「御厨」とある。 チャイムを鳴らしてみた。

キッチンで洗い物をしていた母は、びくっと怯えたように反応し、急いで李里 依を奥の部屋へと連れて行き、息を潜めた。

そうとは知らずに涼は数回チャイムを鳴らしたが、やはり反応がない。ぽりぽ りと頭をかき、この日はあきらめることにした。室内では、母が李里依を抱きしめていた。

マンション前で駐車し待機していた坂本は、ノートパソコンで検索中だった。 「違うな……」 「ねぇ、漢字が違うんじゃないの?」車内に戻った涼が言う。坂本が検索していたのは「御厨李里依」というカテゴ リーだった。

涼の調べによると、母娘が転居してきたのは半年前のことらしい。父親の死を 機に越してきたという。 坂本は、「李里依」を「リリー」に替え、再び検索してみた。驚いたことに、 多数ヒットする。

今は消えてしまった化学者について語るスレ……    ……自宅で変死したJ大学のMって、城東大の……
レス:名無しでケミストさんJ.C.リリーに御執心だった奴ぅ?なんとかタンク……
「これって父親のことじゃないか?」 不審に思った坂本は、そのうちのひとつにカーソルを合わせ、クリックした。

名無しでケミストさん 週刊タイムに載っていた自宅で変死したJ大学の元研究者Mって城東大の 御厨のことだろ?

城東大学研究所に向かった坂本と涼は、御厨と同僚だったという研究員を訪ね た。

彼は机の引き出しから数枚の写真を取り出し、二人に見せた。一番上の写真に 写っていたのは、白い箱型の装置だった。

「アイソレションタンクです。この中には濃度の高い塩水が入っていまして、そ こに浮かんで瞑想します」
内部構造は、光も見えない、音も聞こえない、外界からの刺激はすべて遮断さ れるのだという。J.C.リリー博士なる人物が開発したというそのタンクは、これ に入った少なからぬ人間が神秘的な体験をしていた。

坂本と涼は、写真を一枚ずつめくっていった。と、研究員たちの集合写真に目 が留まる。その中に一人だけ、手をかざして顔を隠そうとしている男がいた。

「これが御厨です」それに気づいた研究員が教えた。 「御厨は、リリーにはまっていましてね。彼の場合、かなり歪んだ解釈なんです が。自分の娘の名前も李里依にしたくらいで。来る日も来る日もタンクの中に入 って……」

研究員は少し間を置いて、ためらいがちに再び話し出した。 「彼はタンクの中に…その…いわゆる非合法なものを混入していたんです」 研究員は深い溜め息を漏らした。普通の実験で飽き足らなくなっていた御厨は 、周囲から見ても様子がおかしいと思えるようになった。結果、彼は大学を辞め させられ、タンクも破棄される。

「自宅で死亡ってのは?」 涼の問いに研究員が答える。 「実は私、一度恐ろしいものを見てしまったことがあるんです。彼が辞める少し 前でした」 研究員はおもむろに立ち上がり、しゃべり続けた。 「夜中です。彼が研究室に泊まりこんでたとき、たまたま前を通りがかったら、 廊下を彼が歩いてくる。声をかけようとしたら、その後ろから、もう一人の御厨 がついてくるんです」

不審に思った研究員がよく見ると、前を歩いていく御厨は少しぼんやりしてい る。それに誘われるようにして、もう一人の彼が後ろを歩き、階段を上がってい こうとした。上はすぐ屋上だ。

「止めましたよ。咄嗟に危険だと思ったんです」 そこまで話し終えたところで、研究員は急に笑い出した。 「ふっ……ははははは……。ところが覚醒した御厨に怒鳴られた。『なぜ止める ? やっと肉体から解放されて、意識の次元に辿り着くことができたのに』って 」

なおも笑いながら、研究員は言った。 「だから、彼の場合、事故というより、自殺に近い死に方だったんじゃないでし ょうか」ピタリと笑いを止め、振り返る。

「彼に最後に会ったとき、『実験は順調だ。自分より娘の適合性が素晴らしい』 ってうれしそうに言ってました。娘さんが気の毒に思えましたね」

 坂本と涼は、御厨が使用していたという家に向かった。妻も寄りつかなくなっ たその家は、今では空き家となって、そのまま放置されている。  家というより、蔵といったほうがいいだろうか。重い扉を開けると、中は研究 室のような残骸が散乱していた。  慎重に足を踏み入れ、室内を見回す。すると、ホワイトボードに書かれた文字 に気づいた。

肉体の潰滅=精神の解放

その言葉にぞっとする。それから2人は、奥に置かれた写真と同じタンクを発 見し、錆びついた蓋を開けた。

「こんなところで……」 中には得体の知れない液体が浮遊していた。御厨が水の中に非合法なものを混 入していたという研究員の言葉を思い出し、坂本は思わず顔を歪める。涼も同じ く眉をひそめた。

「ひどい……」 2人は、さらに机の上を探った。坂本が数枚の写真を見つけ、手に取る。李里 依がベッドの上に横たわっている写真だ。それが何枚か続く。数枚めくったとこ ろで坂本の手が止まった。

横たわる李里依と重なるようにして、彼女の顔がアップで映しこまれていたの だ。2人に戦慄が走る

夜中、線路を歩く2人の少女がいる。どちらとも李里依だ。 前を歩く李里依は、笑いながら線路の上を歩き続けていた。まるで肉体が不確 かであるかのように、白いワンピースと相まってぼうっと浮かび上がっている。 実体の確かなもう一人の李里依は、不安げにその後をついていく。

「ねぇ、どこ行くの?」 李里依が訊ねても、前を行く李里依は歩みを止めない。 「ねぇ、帰ろ。李里依、行きたくない。ねぇったら」 その瞬間、彼女の目の前にもう一人の李里依が顔を近づけ、きつく言い放った 。 「いや」

寝室で眠っていた李里依が飛び起きる。異変に気づいた母が、李里依に駆け寄 った。 「李里依、李里依、大丈夫よ。夢だからね」 「李里依、行きたくないよ、行きたくないよ」  泣きじゃくり訴える娘を、母が強く抱きしめた。 「李里依。いつかきっと、こんなこと終わるからね。忘れられるから」 抱き合う母娘の後ろを、そのとき白い影がすーっと横切った。もう一人の李里 依だった。

同時刻、坂本と涼がマンションを訪れた。チャイムを鳴らすと、中から母親の 悲鳴のような絶叫が聞こえた。

「李里依!」 2人は慌ててノブに手をかけた。 「御厨さん!」

鍵は開いている。迷うことなくドアを開け、部屋に駆け込んだ。リビングを抜 け、一番奥の和室に辿り着くと、母親が茫然とへたり込んでいた。ベランダの窓 は開け放たれ、白いカーテンだけが夜風に揺れている。

部屋には膨大な数の小物が散乱していた。オモチャだけではない。サルやウサ ギのぬいぐるみ、アクセサリー、懐中電灯……。どれも盗難被害に遭ったという 品物ばかりだった。

「どうしてこんなになるまでほっといたんだっ!」 坂本は憤り、母親に向かって責め叫んだ。母親は、悲痛な声を絞り出す。 「放っておいたんじゃない。何とかしようと思ってた。だって、悪いのはあの子 じゃないもの。あの子のせいじゃ……」

母親はその場に泣き崩れた。 「李里依ちゃんはどこなんですか」 涼が問う。だが、母親はただ泣くばかりだ。涼はもう一度叫ぶように問いただ した。 「どこなんですか!?」 母親は無言でゆっくりと顔を上げ、ベランダの外を見た。坂本はすぐさま部屋 を飛び出した。母親を残し、涼も後を追った。

「どこ行くの?」  李里依は線路の上を歩いていた。彼女の前には、やはりもう一人の李里依が行 く。もう一人の李里依は立ち止まり、後ろの李里依においでおいでと手招きをし た。

「李里依、行きたくない」  このままついていくことに抵抗を見せる李里依に対し、もう一人の李里依は強 引に彼女の腕を掴み、引きずるようにして連れて行った。  そこに坂本たちが到着した。涼をその場に残し、坂本は急ぎ李里依の元へと走 る。

後ろの李里依は不意に立ち止まった。前の李里依は怒りの形相で彼女を睨みつ ける。そのとき、前方から電車がこちらに向かってきた。 危険を感じ逃げようとする李里依を、もう一人の李里依が羽交い絞めにし、押 さえつける。身動きがとれずにもがく李里依を助けるべく、坂本は必死に走った 。

と、そのときだった。駆けてくる坂本に気づいたもう一人の李里依が、ガシッ と坂本の足を掴み、引きずり倒したのだ。小さな女の子とは思えないほどの力で 押さえつけてくる。大の男を以ってしても抗えない。

こうしている間にも、電車は刻一刻と近づいてくる、見るに見かねた涼が駆け 出した。そのとき、李里依の前に人影らしきものが現れた。李里依の父親・御厨 だった。

「おとうさん」李里依は目を丸くし、呟いた。両手を差し伸べる父。娘を道連れにするつもり だろうか。涼は懸命に走り、李里依を抱きかかえ、間一髪のところで危機を脱し た。

御厨は電車が通り過ぎた瞬間、呆気なく消滅した。 線路脇に、涼とともに転がり倒れ込んだ李里依が目を開ける。涼はホッと胸を なでおろした。

「大丈夫か!」 坂本が駆け寄る。にっこり顔を上げる涼。そこで、驚愕に身を凍りつかせた。 視線の先には、もう一人の李里依が、不気味に笑いながら立っていたのだった。

「こんな症例、初めてでしたから。最初は戸惑いましたけど……」 女医が病室を覗き込みながら言う。 「さすがに、もう慣れてしまいました」

かろうじて細い窓があるだけのドア越しに、坂本と涼も覗き込んだ。室内には ベッドが一台、そして、その上には李里依が横たわっていた。 「人間としての形を取らなくなったんです」 ベッドの周りを白い影が走り回っているようにも見える。 「やがて、消滅すると思います」 白い影は向かってきたかと思うと、ドアをすり抜け、廊下に飛び出してきた。 しばらく坂本たちの周りをぐるぐると回った後、廊下の隅へと走っていく。

「なんだか…ちょっとかわいそうな気もしますよね」 苦笑気味の女医の言葉に、坂本も涼も胸が痛む。白い影は廊下の奥をぐるぐる と走り続けていた。不気味な笑い声を、微かに響かせながら。

あなたのそばに 少し寂しそうにしているお子さんはいませんか もしいたら やさしく声をかけてあげてください

そのままにしておくと もしかしたら彼らは バランスの崩れた世界の住人 になってしまうかもしれません

今夜ご紹介した一人の いや 二人の少女のように

ベランダから、公園で遊ぶ子どもたちを見つめる女性がいる。李里依の母親だ 。彼女の微笑みは、何を意味しているのだろうか……。

<ウルトラQ〜dark fantasy〜【李里依とリリー】終>


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